ビルや建物で使用された電力量を適切に把握するために設置されているのが電力メーターです。電力メーターには、電力会社が管理するものと、建物の所有者などが管理するものがあります。特に、テナントや入居者ごとに電力使用量の把握と請求が必要な建物の所有者は、注意が必要です。
前回ご紹介した記事「電力メーターに有効期限?」では、法令(計量法)に基づいた検定証有効期限内のメーターを使用しなければならないことをお伝えしました。
今回の記事では、電力使用量を確認する検針業務の実態と、正確で効率的な検針に向けたポイントをご紹介していきます。
電力メーターと検針業務
それではまず、電力メーターの仕組みと検針業務の内容についてみていきましょう。
建物の電力使用量を計量する親メーターと子メーター
電力メーター(図1)は電力を使用するさまざまな建物に設置されています。
一般家庭では電力メーターは各戸に1台設置されていることが一般的です。一方、テナントビルなどにおいては、建物全体の電力使用量を計量する親メーターと、テナントや入居者それぞれの電力使用量を計量するための子メーターが設置されていることはご存じでしょうか(図2)。
親メーターの管理は電力会社が行いますが、子メーターについてはビルや建物の管理者がその管理責任を負う仕組みとなっています。*1
図1 電力メーター(イメージ)
出所)三菱電機「電力量計 シリーズ・ラインアップ 電力管理用計器 | 製品情報 | 三菱電機FA」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/pmng/pmd/items/whm/index.html図2 親メーターと子メーターの関係性
出所)経済産業省 中部経済産業局「電力の計量について|証明用電気計器(子メーター)について」
https://www.chubu.meti.go.jp/d41denji/meter/index.html検針業務とは
電力メーターから、電力使用量を確認する業務が検針業務です。電力メーターの数値を定期的に読み取り、電気料金を計算するために欠かせないものです。
これにより、電力の使用者に対して正確な電気料金を請求することができます。親メーターの検針は電力会社が行いますが、子メーターについてはビルや建物の管理者や委託業者が行います。検針業務の主な内容は次のような流れで実施されます。*2
- 電力メーターの確認
検針担当者が電力メーターを確認し、数値を読み取ります。読み取る際には、電力メーターが正常に動作しているかの確認も行います。 - 電力使用量の記録
読み取った数値を記録し、電力使用量を計算します。記録は手作業で行う場合もありますが、デジタルデバイスが活用されているケースもあります。 - 異常の確認
電力メーターに破損や不具合がないか、読み取った数値に異常がないか確認を行います。 - 電気料金の計算と請求
記録した電力使用量を基に、電気料金を計算し、利用者に対して請求を行います。
検針業務における重要なポイント
子メーターの検針はテナントや居住者などの使用者に対し、正確な請求を行うためにも重要な業務です。誤検針が発生すると、思わぬトラブルに発展してしまう恐れもあります。
では、誤検針で想定されるトラブルや、発生の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
誤検針で想定されるトラブル
子メーターの検針に関しては、ビルや建物の管理者に管理責任があります。しかし、何らかの理由で正確な電力使用量が管理できていない場合は、テナントや入居者への過大請求や過小請求といった誤請求につながる恐れがあります。*3
誤請求が発生してしまった場合、テナントや入居者からのクレームやトラブルなどにより、ビルや建物の運営に支障をきたしてしまう可能性も考えられます。
誤検針の原因
特に手作業に依存する検針業務ではミスがつきものです。主な原因をご紹介します。*3
- メーター数値の読み間違い
電力メーターを目視で確認する場合、メーター数値を読み違えるという人為的ミスが起こりえます。電力メーターが高所や暗所に設置されているなど、ミスを誘発しやすい環境である場合は、さらに注意が必要です。 - 帳簿への記入間違い
電力メーターから目視確認を行った数値を帳簿へ転記する際に、誤った数値を記入してしまう可能性があります。 - システムへの誤入力
使用量計算や料金精算などはシステムを利用しているケースもあります。その場合、帳簿へ記載した数値をシステムへ入力する際に、誤入力の可能性があります。
正確で効率的な検針への対策
正確な検針を行わないと、テナントや入居者とのトラブルを招きかねない検針業務ですが、誤検針を防ぐために、どのような対策が考えられるのでしょうか。
誤検針を防ぐための正確な電力使用量の計量はもちろんですが、ビルや建物の運営では効率性も求められます。正確で効率的に検針ができる仕組みを整えることが効果的です。
ここでは、「モバイルによる検針」「カメラによる検針」「スマートメーターによる検針」「ビル管理システムによる可視化」の4つを例に紹介します。
モバイル検針とは
モバイル検針とは、近距離での無線通信を利用することで、計量値データをモバイル端末で収集することができる検針方法です(図3)。
そのためメーター数値の読み間違いや、帳簿への記入ミスも防ぐことができます。更に、取得した計量値データは、CSVファイル(Excelで読み込めるファイル形式)でパソコンへの送信が可能です。システムへの手入力の手間も削減でき、ミスも防止することができます。*3, *4
図3 モバイル検針の構成例
出所)三菱電機「電力量計の検針作業を効率化した事例」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/members/our-stories/068/report01.html(上記サイトを閲覧する際は、FAメンバーズ/三菱電機ビジネスメンバーズへの登録が必要です。)
モバイル検針導入の効果
モバイル検針では、電力メーターとモバイル端末の間で近距離無線通信を利用しています。そのため、通信範囲(通信が確保できる環境で見通し10m以内)まで近づけば計量値を取得することができます。
高所などに電力メーターが設置されている場合でも、脚立からの転落の恐れがなくなり、より安全に作業ができるようになりました(図4)。*5
図4 目視検針(左)とモバイル検針(右)による作業の違い
出所)三菱電機「電力量計の検針作業を効率化した事例」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/members/our-stories/068/report01.html(上記サイトを閲覧する際は、FAメンバーズ/三菱電機ビジネスメンバーズへの登録が必要です。)
カメラによる検針の自動化
次に、カメラによる検針の自動化についてご紹介します。
カメラによる検針とは
従来の人手による検針では、検針担当者がメーターの設置場所まで移動し、一つ一つ確認する必要がありました。そのような人手による検針を、カメラで数値を読み取ることで代替するサービスもあります(図5)。
図5 カメラによる検針(イメージ)
出所)三菱電機インフォメーションシステムズ「スマート工場ソリューション kizkia-Meter」
https://www.mdis.co.jp/service/kizkia-meter/カメラによる検針の効果
この方法では、カメラを設置して検針を行うため、メーターの設置場所へ人が移動する必要がなく、検針業務を効率化することができます(図6)。
図6 人手による検針とカメラによる検針(イメージ)
出所)三菱電機インフォメーションシステムズ「スマート工場ソリューション kizkia-Meter」
https://www.mdis.co.jp/service/kizkia-meter/また、人手による検針の場合は、「メーター数値の読み違い」「誤記」「誤入力」が発生しやすい課題がありました。カメラで自動的に電力メーターを読み取ることで、正確な数値が把握でき、誤検針の防止につながります(図7)。
図7 カメラでの検針:確認画面
出所)「三菱電機インフォメーションシステムズ」スマート工場ソリューション kizkia-Meter
https://www.mdis.co.jp/service/kizkia-meter/カメラを用いることで、複数の電力メーターを同時に読み取ることができます。テナントが営業中でも入室せずに検針を行うことができ、効率化につながるメリットがあります。
スマートメーターの活用
正確で効率的な検針業務に向けて、次にご紹介するのが「スマートメーター」です。
スマートメーターとは
従来の電力メーターはアナログのものが一般的でした。現在では、電力使用量がデジタル表示され、遠隔通信機能を持ったスマートメーター(図8)が普及してきています。スマートメーターの利用により、正確かつ効率的な検針業務が可能になります。
また、検針だけでなく使用電力量のタイムリーな見える化にも活用できます。*6, *7
図8 三菱スマートメーター
出所)三菱電機「三菱電力量計・電力管理用計器・集中自動検針システム」
https://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/pmd/ym-c-y-0564/y0564s2406.pdfスマートメーター導入の効果
スマートメーターの導入には様々な効果があります。その一例を紹介します。*6, *8
- 遠隔検針・遠隔開閉
スマートメーターは通信機能を持っていることから、メーターの設置場所に行かなくても、通信により遠隔での使用量の把握が可能です。
また、機種によっては、電力使用の開始と停止(開閉)を遠隔で行うこともできます。*6, *7
遠隔通信による正確な電力使用量の把握に加え、担当者がメーター本体を確認してまわる必要がないので、より効率的な検針や管理が可能になります。 - 電力使用量に関する情報把握
スマートメーターでは、30分毎に電力使用量を取得することができます。
電力使用量を見える化することで、使用状況のトレンド把握や、ピークシフトの検討など、省エネに向けた活用も期待できます。*6, *7
ビル管理システムによる可視化
ここまでご紹介してきた方法以外にも、ビル管理システムを活用することで、効率かつ正確な検針業務を行うことができます。
ビル管理システムとは
建物内の設備を統合し、自動で管理・制御するためのシステムです。主に空調、照明、給排水、セキュリティー、防災などの設備が対象となり、これらを統合管理することで、快適性の向上やエネルギー消費の削減、設備管理の効率化を実現します(図9)。
図9 ビル管理システムと設備を繋いだシステム構成(一例)
ビル管理システムによる検針
三菱電機ビルソリューションズで提供しているビル管理システムがFacima BA-system2(以下、Facima)です。
Facimaの標準機能の一つに「自動検針機能」があります(図10)。自動検針機能とは設定した信号(メーター値など)の現在値、起動回数、運転時間などの値を自動的に検針、表示する機能です。
自動検針の値をグラフィック画面に表示するだけではなく、CSVやPDF形式のファイルを自動作成しダウンロードすることが可能です。
また、オプション機能として自動検針機能で収集した電力量データをシステム連携により各テナント様向けの請求書を作成する機能もあります。
図10 ビル管理システム 自動検針レポート(イメージ)
出所)三菱電機ビルソリューションズ「ビル設備運用システム&プランニング Facima ファシーマ」
https://www.meltec.co.jp/building/automation/facima/まとめ
これまで建物やビルの検針業務は手作業で実施していました。その業務の過程は、電力メーターの目視確認や、帳簿への転記、システムへの入力作業など、誤検針につながるようなミスが発生しやすい環境にあります。
誤検針によるミス防止のため、モバイルやカメラによる検針、スマートメーターやビル管理システムの活用など、さまざまな方法をご紹介しました。
建物の所有者や管理者は、今回ご紹介した内容も参考に、誤検針によるトラブルを未然に防ぎ、正確で効率的な検針業務の仕組みを整えていただくと、より安定的な運用が可能になると思います。
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*1
経済産業省 中部経済産業局「電力の計量について|証明用電気計器(子メーター)について」
https://www.chubu.meti.go.jp/d41denji/meter/index.html
*2
厚生労働省 job tag「検針員 - 職業詳細」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/74
*3
モバイル検針×クラウド 検針の裏に潜む非効率、改善のカギは「クラウド」に|三菱電機 Biz Timeline
https://www.mitsubishielectric.co.jp/business/biz-t/contents/synergy/whm_mobile.html
*4
三菱電機「モバイル検針」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/pmng/pmd/pmerit/whm_mobile/index.html
*5
三菱電機「電力量計の検針作業を効率化した事例」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/members/our-stories/068/report01.html
(上記サイトを閲覧する際は、FAメンバーズ/三菱電機ビジネスメンバーズへの登録が必要です。)
*6
三菱電機「三菱電力量計・電力管理用計器・集中自動検針システム」
https://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/pmd/ym-c-y-0564/y0564s2406.pdf
*7
三菱電機「三菱スマートメーターで使用電力量の見える化プロジェクトへ」
https://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/pmd/ym-c-y-0727/y0727j1902.pdf
*8
日本電気計器検定所「スマートメーターとは」
https://www.jemic.go.jp/wp-content/themes/jemic/kihon/kk17.pdf
*9
三菱電機ビルソリューションズ「ビル設備運用システム&プランニング Facima ファシーマ」
https://www.meltec.co.jp/building/automation/facima/