オフィスビルは多数の人々が行き交う施設であるため、オーナーはコンプライアンスを十分に意識しなければなりません。
今回は、ビルオーナーが意識すべきコンプライアンス上の注意点や、具体的なコンプライアンス強化策などをまとめました。
目次
オフィスビルに関するコンプライアンス上の注意点と対策
オフィスビルにおいては、さまざまなコンプライアンス上の問題が発生する可能性があります。ビルオーナーとしては、コンプライアンス違反に起因するトラブルを最大限予防するため、適切な対策を講じなければなりません。
以下のコンプライアンス上の注意点につき、ビルオーナーとして講じ得る対策を解説します。
(1) オフィスビルに適用される法令の遵守
(2) ビルの安全性確保|事故の防止
(3) 契約トラブルのリスク管理
(4) テナントの反社該当リスクの管理
(5) 個人情報の流出防止
(1) オフィスビルに適用される法令の遵守
オフィスビルの建築や管理については、以下に挙げるようにさまざまな法令が適用されます。
- 建築基準法
- 昇降機の適切な維持管理に関する指針 *1
- 消防法
- 労働安全衛生法
- 建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)
これらの法令の規定に違反した場合、オフィスビルの使用禁止や除却処分を含む行政処分の対象になりかねません。
<考えられる対策>
オフィスビルに適用される法令の遵守を徹底するためには、信頼できる専門家のサポートを受けることをお勧めします。
オフィスビルの建築や維持管理について不明点があれば、ビル建築に詳しい一級建築士のアドバイスを受けるのがよいでしょう。法令の細かい規制については、不動産法務に詳しい弁護士にアドバイスを求めるのが安心です。
(2) ビルの安全性確保|事故の防止
オフィスビルの設備不良などが原因で事故が発生し、利用者にケガをさせてしまった場合、オーナーは工作物責任(民法717条1項)等に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
さらに、オーナーの過失が著しいケースでは「業務上過失致死傷罪」(刑法211条前段)の責任を問われ、刑事罰が科されることもあり得ます。
ビルオーナーの責務として、また重い法的責任を負わないようにするため、ビル内における事故の予防によって利用者の安全確保に努めなければなりません。
<考えられる対策>
ビル設備の安全性を確保するためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。老朽化している部分について定期的に点検・補修を行えば、設備不良による事故の発生リスクを抑えられます。
特に昇降機(エレベーター・エスカレーター)については、利用者の安全性に直結する設備であるため、信頼できるメンテナンス業者に定期点検を依頼しましょう。
(3) 契約トラブルのリスク管理
ビルオーナーは、ビルの建設・管理・賃貸などにつき、ビルダー・出入り業者・テナントなどとの間で多数の契約を締結します。時にはこれらの契約相手との間で、契約を巡るトラブルが生じてしまうこともあります。
契約トラブルが発生した場合、巨額の損害賠償請求を受けるなど、ビル経営において致命的なダメージとなる事態が生じかねません。
ビルオーナーとしては、トラブルの発生を可能な限り抑止することに加え、万が一トラブルが発生した際にもリスクを限定しておくことが大切です。そのためには、きちんと契約書の内容を精査した上で、トラブルのリスクを適切にコントロールできるような条項を盛り込まなければなりません。
<考えられる対策>
ビルの規模にもよりますが、ビルオーナーが契約書を締結する頻度は比較的高いと考えられるため、顧問弁護士と契約するのが一案です。いつでも相談できる顧問弁護士を確保しておけば、日々締結する契約に関するトラブルのリスクを抑えられます。
顧問料は弁護士によって異なるので、複数の弁護士から見積もりを取得して依頼先を決めるのがよいでしょう。
(4) テナントの反社該当リスクの管理
ビルにはさまざまなテナントが入居する中で、反社会的勢力に該当するテナントが混じっていると、オーナーは大きなリスクに晒されてしまいます。
たとえば、契約条件について暴力的・脅迫的な要求を受けるかもしれません。
また、反社会的勢力に該当するテナントが入居していることは、出入り業者や他のテナントとの関係で契約解除事由に該当するのが一般的です。
さらに、反社会的勢力の拠点になっていることが知れ渡れば、ビルへの入居を希望するテナント候補が激減し、空室リスクが大きくなってしまいます。
<考えられる対策>
ビルオーナーとしては、入居するテナントについて必ず反社チェックを行い、反社会的勢力に該当する者のテナント入居を阻止する必要があります。
反社チェックをオーナー自身で行う場合は、新聞のデータベースやインターネットで検索するのが一般的です。法人名や役員名と併せて、暴力団・総会屋・検挙・摘発などのワードを入力して検索し、不審な情報がヒットしないことを確認してから入居契約を締結しましょう。
管理会社を通じて反社チェックを行ってもらうことも考えられます。ビルの管理委託先を選定する際には、充実した反社チェックを行っているかどうかについても注目するとよいでしょう。
(5) 個人情報の流出防止
入居するテナントなどに関連して受領する個人情報については、個人情報保護法の規制に沿って取り扱わなければなりません。
違反した場合には、個人情報保護委員会による行政処分の対象となります。また、実際に個人情報が流出すれば、契約違反による解除や損害賠償、報道によるレピュテーションの毀損に繋がりかねません。
<考えられる対策>
個人情報の管理については、アクセス権者を必要最小限の範囲に限定することが大切です。
ビルオーナーが個人の場合には、基本的にオーナー以外の者が個人情報にアクセスできないようにしておく必要があります。個人情報が記載された書面は鍵のかかるキャビネットなどに保管し、電子データにはパスワードを付して厳重に保管しましょう。
ビルオーナーが法人の場合、個人情報の管理を担当する役職員にアクセス権者を限定すべきです。電子データについては、パスワードの設定に加えて、保管先フォルダにアクセス権を設定するなどの方法が考えられます。
まとめ
オフィスビルの運営には、コンプライアンス上の注意点がたくさん潜んでいます。ビルオーナーは、コンプライアンス違反のリスクを正しく認識した上で、各リスクについて適切な対策を講じることが大切です。
オフィスビルのコンプライアンスについては、各種専門家のアドバイスやサービスを受けることが有用です。信頼できるメンテナンス業者の選定や、必要に応じて一級建築士や弁護士などに相談しながら、コンプライアンス対策を行いましょう。
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国土交通省「「昇降機の適切な維持管理に関する指針」等を公表~エレベーター等の安全性を維持するために~」
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000607.html