ビルに設置されている浄化槽には、「浄化槽法」の規制が適用されます。ビルオーナーは浄化槽法の規定に従い、浄化槽の保守点検や清掃などを適切に実施しなければなりません。
今回はビルオーナーが注意すべき「浄化槽法」につき、規制の概要やチェックポイントなどをまとめました。
※浄化槽は、ビルの給排水設備の一つです。
給排水設備に関する法律についても以下の記事で解説しています。
参考記事:ビルの給排水設備と法律 整備の基準・点検に関するルールを解説
ビルに設置される浄化槽の役割と「浄化槽法」
ビルの場合、一般家庭に比べて排水量が非常に多く、また地階などでは下水道を通じた排水ができない場合もあります。
そのため、し尿や雑排水を溜めた上で浄化槽を通じて処理し、排水ポンプを通じて下水道本管へ流すのが一般的です。
浄化槽には常時汚水が溜まっており、定期的に保守点検や清掃をしなければ漏えい・悪臭・害虫発生などの原因となります。そのため「浄化槽法」によって、浄化槽管理者が遵守すべき規制が定められています。
ビルに設置されている浄化槽についても、浄化槽法の規定が適用されます。したがってビルオーナーは、浄化槽法の規制内容を正しく理解し、その遵守に努めなければなりません。
「浄化槽法」によって浄化槽管理者に課される義務
浄化槽管理者は、浄化槽法に基づき以下の義務を負います。浄化槽が設置されたビルを保有するオーナーは、浄化槽法の規定に従って適切に義務を履行しましょう。
(1) 浄化槽の設置等の届出
(2) 浄化槽の水質検査
(3) 浄化槽の保守点検
(4) 浄化槽の清掃
(5) 浄化槽に関する技術管理者の設置
(6) 都道府県知事に対する各種報告
(7) 浄化槽使用の廃止の届出
浄化槽の設置等の届出
浄化槽を設置し、またはその構造・規模を変更しようとする者は、原則としてその旨を都道府県知事および特定行政庁(環境省・国土交通省)に届け出る必要があります(浄化槽法5条1項)。
特定行政庁に対する届出は、都道府県知事を経由して行います。
浄化槽の設置等の届出を受理した都道府県知事は、浄化槽の設置・変更の計画について、生活環境の保全・公衆衛生上の観点から改善の必要があると認めるときは、届出者に対して必要な勧告をすることができます(同条2項)。
勧告が可能な期間は、原則として届出受理日から21日間です。この期間が経過しなければ、浄化槽工事に着手することができません(同条4項)。
また、浄化槽の設置・変更の計画が建築基準法などの規定に適合しない場合は、特定行政庁によって計画の変更・廃止が命じられることがあります(同条3項)。
浄化槽の水質検査
浄化槽管理者は、浄化槽について以下の水質検査を受けなければなりません。水質検査は、都道府県知事が指定する機関(=指定検査機関)に委託して実施します。
(a) 設置後等の水質検査
浄化槽の新規設置または構造・規模の変更がなされた後、3か月を経過してから5か月以内に受ける必要があります(浄化槽法7条1項)。
(b) 定期検査
原則として毎年1回受ける必要があります(同法11条1項)。
水質検査を実施した指定検査機関は、その結果を都道府県知事に対して報告します(同法7条2項、11条2項)。
浄化槽の保守点検
浄化槽管理者は、毎年1回以上(全ばっ気方式の浄化槽については、おおむね6か月ごとに1回以上)、浄化槽の保守点検をしなければなりません(浄化槽法10条1項本文、環境省関係浄化槽法施行規則7条)。
浄化槽の保守点検は、「浄化槽の保守点検の技術上の基準」に従って行う必要があります(浄化槽法8条)。
浄化槽の保守点検の技術上の基準は、環境省関係浄化槽法施行規則2条で定められています。
浄化槽の保守点検は、以下のいずれかの者に委託することができます(浄化槽法10条3項)。
(a) 条例で浄化槽の保守点検を業とする者の登録制度が設けられている場合
→ 当該登録を受けた者(浄化槽保守点検業者)
(b) 当該登録制度が設けられていない場合
→ 浄化槽管理士
なお、使用の休止を届け出ている浄化槽については、保守点検義務が免除されます(浄化槽法10条1項但し書き)。
浄化槽の清掃
浄化槽管理者は、毎年1回以上(全ばっ気方式の浄化槽については、おおむね6か月ごとに1回以上)、浄化槽の清掃をしなければなりません(浄化槽法10条1項本文、環境省関係浄化槽法施行規則7条)。
浄化槽の清掃は、「浄化槽の清掃の技術上の基準」に従って行う必要があります(浄化槽法9条)。
浄化槽の清掃の技術上の基準は、環境省関係浄化槽法施行規則3条で定められています。
浄化槽の清掃は、市町村長の許可を受けた浄化槽清掃業者に委託することができます(浄化槽法10条3項)。
なお、使用の休止を届け出ている浄化槽については、清掃義務が免除されます(浄化槽法10条1項但し書き)。
浄化槽に関する技術管理者の設置
建築基準法施行令に規定する方法によって算定された処理対象人員が501人以上の浄化槽の管理者は、自ら技術管理者として管理する場合を除き、技術管理者を設置しなければなりません(浄化槽法10条2項、浄化槽法施行令1条)。
技術管理者は、以下の(a)または(b)の資格を満たしている必要があります(環境省関係浄化槽法施行規則8条)。
(a) 以下の要件をいずれも満たす者
- 浄化槽管理士の資格を有すること
- 処理対象人員が501人以上の浄化槽の保守点検および清掃に関する技術上の業務に関し、2年以上実務に従事した経験を有すること
(b) (a)と同等以上の知識および技能を有すると認められる者
都道府県知事に対する各種報告
浄化槽について以下の事由が発生した場合、浄化槽管理者は対応する期間内に、都道府県知事に報告書を提出しなければなりません。
(a) 浄化槽の使用開始(浄化槽法10条の2第1項)
→ 使用開始の日から30日以内
(b) 処理対象人員が501人以上の浄化槽に係る技術管理者の変更(同条2項)
→ 変更の日から30日以内
(c) 浄化槽管理者の変更(同条3項)
→ 変更の日から30日以内
報告書の様式は、都道府県庁や各都道府県のウェブサイトなどから入手できます。
浄化槽使用の廃止の届出
浄化槽の使用を廃止した場合、浄化槽管理者は廃止日から30日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければなりません(浄化槽法11条の3)。
ビル浄化槽の適切な管理を怠った場合のペナルティ
浄化槽法等の規定に従って浄化槽の保守点検・清掃が行われていないと認められる場合、浄化槽管理者などは、都道府県知事から以下の命令を受ける可能性があります(浄化槽法12条2項)。
(a) 浄化槽の保守点検・清掃に関する改善措置命令
(b) 浄化槽の使用停止命令(10日間以内)
改善措置命令・使用停止命令に違反すると「6か月以下の懲役または100万円以下の罰金」に処されます(同法62条)。
また、浄化槽の定期点検が適切に実施されておらず、生活環境の保全および公衆衛生上必要があると認められる場合、浄化槽管理者は都道府県知事により、一定の期限までに水質検査を受けるべき旨を勧告される可能性があります(同法12条の2第2項)。
勧告に従わない場合は、水質検査命令の対象となります(同条3項)。水質検査命令に違反すると「30万円以下の過料」に処されます(同法66条の2)。
特に大規模なビルにおいて、浄化槽の管理不備を原因とする周囲への悪影響が生じている場合には、上記の各行政処分の対象となる可能性が高いので十分ご注意ください。
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