• 更新日:2025.08.28
  • 作成日:2025.08.28

オフィスビルにおけるBCP(事業継続計画) 災害に備えビルオーナーが取り組むべきことは?

自然災害・テロ・感染症などに対する危機感が募る中で、BCP(事業継続計画)の重要性が再認識され、その対策や備えが今後はよりいっそう求められていくでしょう。

ビルオーナーとしても、入居するテナントによる事前対策計画やBCPの実施の助けとなるように、ビル設備の整備や復旧業者の手配等を適切に行うことが大切です。

今回はオフィスビルにおけるBCP(事業継続計画)につき、ビルオーナーに求められる取り組みなどをまとめました。

BCP(事業継続計画)とは

「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」とは、自然災害・テロ・システム障害・情報流出・感染症などの緊急事態が発生した際に、重要な事業を継続させるための方針・体制・手順などを記載した計画です。

内閣府が公表している事業継続ガイドライン*1 において、BCPの策定を含む「BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)」を行う際の指針が示されています。

オフィスビルのオーナーとしても、入居するテナントによる事業継続の助けとなるように、BCP対策を行うことが求められます。適切なBCP対策が施されているオフィスビルには、危機管理意識の高い良質なテナントが集まる可能性が高いでしょう。

BCPおよび平常時の計画の概要

内閣府が公表している事業継続ガイドライン*1では、BCMの一環として策定すべき計画として、BCPを含む以下の4つが挙げられています。

(1) BCP(事業継続計画)
緊急事態への対応計画です。


<定めるべき事項の例>

  • 重要業務の目標復旧時間
  • 目標復旧レベルを実現するために実施する戦略、対策やその選択肢
  • 対応体制
  • 対応手順

など

(2) 事前対策の実施計画
緊急事態に備えた対策のうち、平常時から順次実施すべきものについて、その実施スケジュールを含めた計画を定めます。


<定めるべき事項の例>

  • 事前対策の内容
  • 実施のための担当体制
  • 予算の確保
  • 必要な資源の確保
  • 調達先や委託先の選定

など

(3) 教育・訓練の実施計画
各役員・従業員が、BCMにおける役割に応じて必要な能力・力量を獲得できるように、行うべき教育・訓練の実施計画を定めます。


<定めるべき事項の例>

  • 実施体制
  • 年間の目的
  • 対象者
  • 実施方法
  • 実施時期

など

(4) 見直し・改善の実施計画
BCMの点検・経営者による見直し・継続的改善等を行っていくための計画を定めます。


<定めるべき事項の例>

  • 実施体制
  • スケジュール
  • 手順

など

BCPは実際に緊急事態が発生した際の対応計画である一方で、その他の3つの計画は、平常時に実施すべき計画です。
ビルオーナーとしては、テナントが上記の枠組みに従ってBCP等を策定することを念頭に置きつつ、それを助けるようなビル管理体制を構築することが求められます。

BCPと平時の各計画につき、オフィスビルに入居する企業が意識すべきポイントを解説します。

BCPの観点から、ビルオーナーが取り組むべきこと

テナントによる平常時の対策やBCPの実施を助けるため、ビルオーナーが取り組むべき事柄としては、以下の例が挙げられます。


(1) ビル設備の整備
(2) 防災訓練の実施
(3) BCP(BCM)に関するセミナーの開催
(4) 緊急時における復旧業者の事前選定
(5) 被害者発生時の対応手順の決定

ビル設備の整備

自然災害等が発生した際、ビルの防災用設備がきちんと整備されていれば、テナントに生じる被害を最小限に抑えることができます。

具体的には、平常時から以下の対策を行うことが推奨されます。

(a) 耐震性能の強化
特に築年数の古いオフィスビルでは、旧耐震基準に基づく不十分な耐震性しか備えていない場合があります。テナントに安心感を与えるためにも、時機を見て耐震補強工事を行うのがよいでしょう。

(b) 非常用電源の確保
ビルに非常用の蓄電池や自家発電施設が備わっていれば、電力障害によって入居するテナントの業務がストップする事態を防げます。

(c) 非常用食料の備蓄
自然災害等の発生時には、オフィスビルに長期間滞在しなければならない事態も想定されます。テナント自身でも非常用食料を準備しているケースが多いですが、ビル側にも準備があれば、テナントにとってはいっそう安心です。

(d) 水道停止時に備えた貯水
水道が停止した場合に備えて、トイレなどで利用するための水を蓄えておくと、テナントにとっての利便性に繋がるほか、衛生管理の面からもメリットがあります。

防災訓練の実施

緊急時に備えた教育・訓練の観点からは、テナントが個々に行う防災訓練に加えて、ビル全体での防災訓練を実施することが望ましいでしょう。

ビルオーナーが主導して危機対策マニュアルを整備し、テナント企業に共有した上で定期的に防災訓練を実施すれば、緊急時の被害拡大予防に繋がります。

BCP(BCM)に関するセミナーの開催

BCP(BCM)の重要性に対する認識の程度は、テナントによってまちまちです。緊急時への危機感が低いテナントは、実際に緊急事態が発生した際に、他のテナントへ迷惑をかける可能性が否定できません。

ビルオーナーとしては、テナントのBCP(BCM)に関する意識向上を目的として、外部講師によるセミナーを開催することも考えられます。既存テナントに対する啓蒙となるほか、防災・危機管理対策が整っていることにつき、対外的なアピールにもなり得るでしょう。

緊急時における復旧業者の事前選定

自然災害などが発生した際には、ビル設備にも不具合が生じることが想定されます。たとえば昇降機の停止、天井・壁の破損、電源や水道の停止などです。
これらの不具合を迅速に復旧できれば、テナントの迅速な事業復旧を助けることになります。

ビルオーナーとしては、想定される不具合を網羅的にリストアップして、それぞれの復旧を依頼する業者を事前に選定しておくことが大切です。
単に業者の連絡先を控えるだけでなく、実際に問い合わせを行い、緊急時対応の可否や見込みスケジュールなどを把握しておくとよいでしょう。

被害者発生時の対応手順の決定

災害等によってビル設備が崩落または誤作動し、入居者や利用者の死傷事故が発生する可能性もあります。

ビルオーナーとしては、ビル内での死傷事故の可能性を想定して、その際の対応手順を明確化しておきましょう。具体的には、以下のような事項を検討しておくことが求められます。


  • 警察や救急への連絡
  • 応急処置の手順、使用する器具(AEDなど)
  • 監督官庁への報告
  • 被害者に対する補償の検討手順、相談先の弁護士

など

まとめ

オフィスビルのオーナーとしては、テナントのホスピタリティ向上および危機管理対策として、BCP(BCM)を意識した各種の取り組みを行うことが推奨されます。
緊急事態に対する危機感が高まっている昨今の情勢下において、ビルのBCP対策を強化することは、良質なテナントを呼び込む観点からプラスに働くでしょう。

ビルにおけるBCP対策は、設備の整備・点検や防災訓練をはじめとして、平常時からの取り組みが重要になります。ビルオーナーは、緊急事態発生時のリスクを多角的に分析した上で、充実したBCP対策を講じてください。

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この記事の著者

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

https://abeyura.com/
https://x.com/abeyuralaw

*1
内閣府防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」p.21~26
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf

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