ビルの安全管理を行う上で、防火管理は利用者の命に係わる重要項目です。
そのため特定のビルでは、消防計画や消防設備の管理は「防火管理者」、つまり防火管理の責任者を選任しなくてはなりません。
防火管理者は、防火管理者の届出や、ビルの消防計画、消防設備の定期点検など、定められた義務を行い、その旨を消防署に報告する必要があります。
では、どのような建物で防火管理者の選任が必要なのでしょうか。
また、防火管理者の業務とはどのようなものなのでしょう。
この記事では、防火管理者の概要について解説していきます。
防火管理者とは
防火管理者は、建物の消防設備の維持、避難訓練など、防火に関わる管理や計画を行う責任者です。
「消防法第八条」*1、「消防法施行令第一条の二」*2 により、特定の用途や、収容人数の多い建物に選任が義務付けられています。
建物のオーナーや管理者は建物火災を防ぐことはもちろん、万が一の際に、延焼や被害を最小限に抑え、利用者や従業員が安全に避難できるように努めなくてはなりません。
そこで、建物内での火の取り扱いの監督や、防火設備・消火設備の管理、避難経路の維持などを確実に行うために、防火管理者を選任するのです。
防火管理者が必要な建物
以下の表は、消防法第八条*1 と消防法施行令第一条の二*2 によって防火管理者の選任が定められている建物の一例です。

(表)
・消防法施行令第一条の二(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336CO0000000037)
・主な防火・防災管理関係義務一覧表|東京消防庁(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p12.html)
を元に筆者作成
防火管理では、自力避難が困難な入居者がいる施設や、不特定多数の利用者がいる施設は「特定用途の防火対象物」とされ、比較的小規模の収容人数であっても防火管理者の選任をしなければなりません。
一方、利用者が限定的であったり変動のあまりない建物においては「非特定用途の防火対象物」とされ、収容人数50人という比較的規模の大きい建物のみ、防火管理者の選任が必要となります。
防火管理者が行うこと
防火管理者の業務は、消防法施行令第三条の二*2 により、以下の責務が定められています。
- 消防計画を作成、届出
- 避難の訓練の実施(消火、通報訓練)
- 消防設備等の点検及び整備
- 建物内での火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
消防計画書は、内容に更新があった場合(テナントの入れ替わり等)は、随時その旨を届け出なくてはなりません。
また消防設備では、建物の用途や規模に関わらず、全ての建物において半年に1回の機器点検が必要です。

(表)
・消防用設備等には定期点検が必要です|総務省消防庁(https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/items/prevention001_19_hutekisetsu_leaflet.pdf)
・消防法施行規則の規定に基づき、消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法並びに点検の結果についての報告書の様式を定める件 p.2|総務省消防庁(https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/assets/h16_kokuji9.pdf)
・自衛消防訓練について 訓練を行う回数|東京消防庁 城東消防署(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-jyoutou/jieisyobo/index.html)
を元に筆者作成
消防避難訓練は年1回以上、特定用途の建物については年2回以上の実施が、消防法施行規則第三条第10項*3 に定められています。
ただし、これは最低限の回数が定められているだけで、必要であれば年に3回でも4回でも行って構いません。
また、消防設備・避難経路の維持管理については、消防署による立入り検査(消防法第四条*1)も行われます。
消防立入り検査は、年何回という決まりは特にないため、日頃の防火管理で特に問題がなければおおよそ年1回程度の消防立入り検査を受けるのみです。
ただし、以前の立入り検査で問題があった場合や、火災を起こした経歴がある場合などでは、年に数回の立入り検査を受けることもあるでしょう。
また、防火管理に問題があった大きな火災事例が地域内で発生した後などは、地域一斉に臨時の立入り検査が行われるケースもあります。
誰が防火管理者になるのか?
防火管理者は、建物の利用者に対して防火管理に関する指示や命令を出さなければならないため、ビルにおいてある程度の権限を持った立場の人(オーナーやビル管理者)を選任します。
防火管理者になるには、該当する建物に適した防火管理者講習(乙種、甲種)を受講し、終了証を受領しなければなりません。(※防火管理上必要な「知識・技能」を有する場合は受講不要*4)
防火管理者講習は、防火管理者になる・ならないに関わらず、誰でも受講することが可能です。
甲種・乙種の2種類があり、建物の用途と規模によって、以下のように必要な資格が分類されます。

(表)
防火管理者の資格〈防火対象物(建物)の区分と建物の防火管理者の資格区分〉|東京消防庁(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p04.html)を元に筆者作成
甲種は2日間の講習で、すべての建物に対応した防火管理者の資格を得ることが可能です。
一方、乙種は1日間の講習で、防火管理者に選任できる建物の用途や規模が限定されます。
建物の用途や規模、収容人数が途中で変わったり増えたりすることは考えにくいため、建物に合わせた種類の講習を受けていれば十分です。
防火管理の注意点
防火管理者が必要かどうかは、事業所ごとではなく、建物全体の用途や規模で決まります。
複合用途の建物である場合(例えばオフィスビルやマンションに飲食店等が入っている場合)、火災の危険度は建物全体に影響するものです。
このことから、建物全体として防火管理が義務付けられていれば、各テナントの規模が小さくても、入居する全てのテナントで防火管理者の選任が必要となります。*5
さらに、高さ 31mを超える高層ビルや地下街などでは、各テナントで防火管理者を定めた上で、建物全体の一体的な防火管理を行うために「統括防火管理者」を選任しなくてはなりません。(消防法第八条の二*1)
「統括防火管理者」という資格は特に無いため、対象の防火管理者資格を持っていれば、選任が可能です。
また、消防署の立入り検査で不備があった場合は、指導や警告を受けることがあります。
不備に対して改善が見られなかったり、指導や命令に従わない場合は、消防法の規定に沿った罰則が建物の所有者や責任者に課せられます。
まとめ
防火管理者の業務は消防計画から設備の管理まで多岐にわたりますが、消防設備の管理では、設備点検などを業者に委託することで、消防設備管理の負担を抑えることが可能です。
消防設備に関する専門的な技能や経験を有した業者に委託することで、必要なタイミングで設備を点検することができます。また、点検だけではなく、設備の劣化状況の診断やリニューアル等も実施することができますので、法令を遵守しつつ、より安心・安全な空間を維持していくことにつながります。
<消防設備の精密診断>
通常の点検では確認が難しい環境、経年による劣化状態などは、精密な診断が必要になる場合があります。
- 自火報受信機等の劣化診断
- 誘導灯設備の劣化診断
- 避難器具の劣化診断
- 消火設備の劣化診断
<消防設備のリニューアル計画>
消防設備・機器類も経年劣化により老朽化が進行します。機器が古くなれば故障時に修理が困難になる可能性も高まります。
消防法の改正対応や、設備機器の機能向上など、ビルの安全・防災面を考慮しながら、機能維持・向上させていくような更新計画が重要です。
- 消防法の改正に適合させるためのリニューアル
- 防災・安全機能向上のためのリニューアル
- 維持管理コストを改善するためのリニューアル
- 省エネ化を図るためのリニューアル
また、ビルの管理にあたっては、今回ご紹介した消防法をはじめ、多岐にわたる法令が定められています。*6

出所)建物・設備のメンテナンスの必要性|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/solution_info/quality_maintenance/#law今回ご紹介した消防法や消防設備だけに限らず、ビル管理者は法令で定められた業務を漏れなく遂行し、適切なビル設備のメンテナンスやリニューアルを通じて、ビルの利用者がより安心・安全に過ごせるような空間をつくっていくことが重要です。
- MAIL MAGAZINE
-
ビルに関わるすべての方に!ちょっと役に立つ情報を配信中
メール登録
*1
消防法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC1000000186
*2
消防法施行令
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336CO0000000037
*3
消防法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336M50000008006
*4
一般財団法人 日本防火・防災協会 防火管理者の要件
https://www.bouka-bousai.jp/hp/lec_info/guide_bouka.html
*5
~消防法第8条の2 統括防火・防災管理者制度~ | 東京消防庁
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/toukatsu/index.html
*6
建物・設備のメンテナンスの必要性|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/solution_info/quality_maintenance/#law


