ひとくちにビル管理といっても、日々の清掃や設備のメンテナンス、故障時の緊急対応など様々なものがあります。
特に設備の不具合への対応や耐用年数による交換となると、対応できる業者や人手の手配が必要になってきます。
しかし設備の故障リスクを自動的に先読みし、対応業者や人員の手配まで行ってくれる存在があったら?
それが「デジタルツイン」によるビル管理です。
技術革新で進化するスマートビル管理の先進事例をご紹介します。
「デジタルツイン」とは
IoT技術の発展でさまざまなモノがインターネットでつながり、またセンシング技術によって様々なモノのコンディションをデータとして把握できるようになりました。
人の手が届かないところでも、ドローンが活躍する時代です。
そこで注目されているのが「デジタルツイン」の概念です。
その名の通り「双子」をサイバー空間上で再現する、というものです。

出所)東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」
https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/具体的には、現実空間で手に入れたデータをサイバー空間の「双子」にリアルタイムで送り、サイバー空間上でデータを分析、その上で現実空間で起こりそうなことをシミュレーションします。
その結果を自動的に現実空間のインフラや人間にリアルタイムでフィードバックし、必要な対応を促したり手伝ったりする、という仕組みです。
話をわかりやすくするために、最新事例を紹介していきましょう。
香港の巨大スマートAIビル
ひとつは、香港島の中心部に位置する「One Taikoo Place」に導入されているシステムです。41階建て、延べ面積は95,000㎡という大規模なオフィスビルです。*1

「One Taikoo Place」
出所)「TAIKOO PLACE」
https://www.taikooplace.com/en/work/onetaikooplace導入しているのはアラップ社の「Neuron」という総合プラットフォームです。これにより様々なことが自動化されています。
まず環境への配慮という意味で、Neuronは設備の運転履歴、監視カメラの画像解析から施設内の人数データを取得、機械学習によって天気予報などと照らし合わせ24時間、30分後に必要とする空調負荷を予測します。
その上でエネルギー消費量が最小になるよう、熱源施設の運転スケジュールを作成してくれるのです。
結果、空調エネルギーを手動オペレーションよりも約15%削減したといいます。もちろんコストカットにもつながります。
そしてNeuronにはもっと強力なビル管理支援機能があります。*2
竣工時の設備機器のデータや仕様書、設計図などの情報も統合されているという点です。
よって空調機器やエレベーターのセンサーデータを基にAIが機器の故障時期を推定した際、さらには、IoTセンサーを用いてトイレの清掃が必要なタイミングを検知した際には、作業員のスケジュール上に機器の交換時期や清掃時期を自動的にリストアップする機能を備えています。
システムが自動で設備を発注、修理作業員を手配し、さらには作業員の入館に必要なカードキーも自動的に発行してくれるという機能まで備えています。*3
不要な点検や人員管理、それに伴う事務作業を廃し、運営コストはさらに下がることでしょう。
街そのもののデジタルツインを作成
さらに大掛かりなデジタルツインを試みているのが、シンガポールです。
都市をまるごとサイバー空間に投影し、様々な危機管理や効率的な街の設計に活用するというプロジェクト「バーチャル・シンガポール」です。

バーチャル・シンガポール上のマリーナベイ・サンズホテル周辺
出所)National Research Foundation Singapore「Uses of Virtual Singapore」
https://youtu.be/y8cXBSI6o44?si=35XzlpSbXoXeYF58&t=18物や地形、緑地や道路などの3Dデータが取り込まれた架空のシンガポールが作られていて、この中で人の動きや交通状況、建物の変化などをシミュレーションすることができます。*4
現実世界のさまざまな状況がリアルタイムに反映され、例えば監視カメラから得られた交通情報、駐車場に車が何台停まっているかなどのデータを取得しています。さらには、地形や建物の向きなどから、それぞれの場所で太陽光発電を行うとどのくらいの電力が得られるか、といったシミュレーションさえ行います。

出所)National Research Foundation Singapore「Uses of Virtual Singapore」
https://youtu.be/y8cXBSI6o44?si=WckMh1M-KW4mgLfP&t=237シンガポール政府は、このデジタルツインを都市計画に活用しています。
たとえばデジタルツイン上に新しい道路を作ることで、本当に交通状況が改善されるかを事前にシミュレーションすることができます。
実際に何年もかけて道路を作った場合、それがうまく機能しなければ無駄な予算と時間を費やしてしまうことになります。しかし事前に現状をリアルデータで把握し続け、どこにどんな設備を造れば最短距離で課題を解決できるかがわかる、というわけです。
デジタルツインが切り拓く世界
デジタルツインの活用は、ビル管理にとどまらず様々な業界で「無駄を省く」ことを可能にしていきます。
人手不足という課題を抱えている日本の場合、最低限の人員でビルや都市の管理を実現するということもあるでしょうし、環境への配慮もできるでしょう。
例えばゴディバジャパン社は、AIで商品の需要を予測するシステムを拡大しつつあります。*5
フードロスを防ぐためです。
またタイヤメーカーのミシュラン社は運送会社向けに、走行データに応じてタイヤの交換時期を顧客に通知するというビジネスモデルを展開しています。*6
距離の算出やタイヤの状態検知を行うセンシング、IoT、データアナリティクスを駆使し、摩耗具合に応じてメンテナンスを加えることで、長く使い続けることができるようにしています。

出所)ミシュラン社「ミシュラン、商用車用タイヤの点検作業をDX化した『MICHELIN Tire Care』を提供開始」
https://news.michelin.co.jp/articles/20211201-michelin-tire-care生産物の状況をメーカー側が「見える化」することで販売後の管理をしやすく、メーカーが責任を持って回収することもできます。いわゆる「サーキュラーエコノミー」に貢献することが可能になりそうです。
デジタルツインの強みは「時間や資材を使って現物を再現する必要がない」という点です。これらの新技術は、ビル単体で構築するにはまだまだハードルが高いものの、今後実用化が進みシンガポールの事例のように街・都市規模で仮想化やAI活用が整備され、商品やサービスに取り入れられていくことで、身近に活用できるようになるでしょう。
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日経クロステック「香港のAIスマートビル、デジタルツインで管理の手間を軽減」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00005/00029/?P=2
*2
日経クロステック「香港のAIスマートビル、デジタルツインで管理の手間を軽減」
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*3
日経クロステック「香港のAIスマートビル、デジタルツインで管理の手間を軽減」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00005/00029/
*4
東洋経済オンライン「日本人がほぼ知らない「もう1つのシンガポール」
https://toyokeizai.net/articles/-/702862
*5
日本経済新聞「ゴディバジャパン、AIで品切れ・フードロス防止」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0546R0V01C22A0000000/
*6
ミシュラン社「ミシュラン、商用車用タイヤの点検作業をDX化した「MICHELIN Tire Care」を提供開始」
https://news.michelin.co.jp/articles/20211201-michelin-tire-care


