2015年12月、気候変動問題に取り組むため、2020年以降の温室効果ガス排出削減等の目標を定めたパリ協定が採択されました。*1
このように、地球温暖化が世界的な課題となっている中、環境問題に配慮したオフィス作りで地球温暖化防止に貢献ができます。
環境にやさしいオフィス作りは社会問題に貢献するだけでなく、企業自体にもさまざまなメリットをもたらします。
そこで今回は、オフィスビルでできるCO2削減への取り組みと、企業が享受できるメリットについて見ていくことにしましょう。
世界的に取り組むべき地球温暖化問題
地球温暖化の進行は非常に深刻であり、2011~2020年の世界平均気温は工業化前と比較して、1.09℃も上昇しました。この観測値は過去10万年間でみても前例のない数値です。*2
2021~2040年の世界平均気温に関する予測について、21世紀半ばに実質CO2排出ゼロが実現するシナリオだと、気温上昇は1.5℃になる可能性が高いとされています。一方で気候政策を導入しない最大排出量のシナリオだと、今世紀末までの気温上昇は3.3~5.7℃の予測です。*2
地球温暖化の原因
地球温暖化の原因は、温室効果ガスによるものである可能性が高いと考えられています。
温室効果ガスは地表から地球の外に放出される熱を蓄積し、再び地表に戻す性質があります。その結果、大気中の温室効果ガスが増えることで、地球にとどまる熱も増え、温暖化につながりました。*3
温室効果ガスのなかでも、最も多い割合を占めているのがCO2です。
出所)JCCCA 温暖化とは?地球温暖化の原因と予測 地球温暖化の原因と予測
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01つまり、石油などの化石燃料を燃やすことによって排出されるCO2が地球温暖化の最大の原因です。CO2は産業革命前の1750年から2013年までで40%以上も増加しており、過去80万年で前例のない水準と国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)によって報告されました。*4
温室効果ガス削減の目標を定めたパリ協定
世界的な気温上昇を抑えるため、2015年12月にパリで開催されたCOP21において、パリ協定が採択されました。パリ協定は2020年以降の温室効果ガス排出量削減を定めた国際的な枠組みです。*5
工業化前と比較して世界平均気温を1.5℃に抑えることが、世界共通の長期的目標です。1.5℃の目標を達成するため、主に以下のような取り決めもされました。*5
- すべての国が削減目標を5年毎に提出・更新する
- すべての国が実施状況を報告し、レビューを受ける
- 世界全体としての実施状況を5年毎に検討
- 先進国の資金提供と、途上国の自主的な資金提供
パリ協定後の2020年10月、日本政府は温室効果ガス排出量を全体でゼロを目指す、カーボンニュートラルを定めました。カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量をゼロにするのではなく、排出量と森林などによる吸収量を合わせてゼロにすることを意味します。*6
環境にやさしいオフィス
地球温暖化防止のために、環境に配慮したオフィスビルが誕生しています。以下、具体的な事例とともに解説します。
室内の熱効率を高めてCO2排出量削減 *7
- エアーフローウィンドウ
二重ガラスの間にある空気層に室内空気を循環させて、外部からの熱を防ぐ効果があります。窓際用の空調機を設置しなくてよいため、エネルギー消費量が低減されます。
- クールルーフ
屋上に遮熱塗料をまくことで、日差しによる室内温度の上昇を抑える仕組みです。東京23区にクールルーフを導入するシミュレーションによると、温度を下げる効果は導入範囲外にも及ぶことが分かりました。すべての屋根の反射率を85%とすると、日中の平均気温は約0.32℃下がる計算です。 *8
- 次世代パーソナルオフィス空調(デスク空調)
冷水を循環させたデスクパーティションによって、デスク自体を冷やしたり、送風を行ったりできる空調です。各デスクで冷暖房の調節ができるので、個人の好みの温度で利用できます。快適性と省エネ性の両面を持つ空調です。
出所)三菱地所のオフィスビルコンセプト 快適な室内環境を維持
https://office.mec.co.jp/concept/eco.htmlヒートアイランド対策 *9
- 屋上、壁面緑化
ビルの断熱性を高めると同時に、大気汚染物質の吸収・吸着の効果も見込めます。
また、国土交通省の測定によると、平均気温32.5℃(最高気温37.2℃、最低気温29.7℃)の日中に、屋上のタイル表面は51.7℃まで上昇しました。一方で芝生の表面は32.5℃、植栽基盤下面は28.7℃と緑の断熱効果が測定されています。 *10
出所)国土交通省「猛暑日における屋上緑化のヒートアイランド抑制効果について」をもとに作成
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/04/040824_.html再生エネルギーの利用 *11
- 小型風力発電機
- 太陽光発電機
これらを屋上に設置することにより、風や太陽光のエネルギーが活用できます。
再生可能エネルギーは温室効果ガスを発生させないため、注目されているエネルギー源です。2017年度の時点で日本の再生可能エネルギー比率は約16%でした。この水準はドイツやイギリスなどと比較すると低い傾向にあります。*12
2030年には日本の再生可能エネルギー比率を22~24%までの水準に上げる見通しです。*12
出所)経済産業省 再生可能エネルギーとは 再生可能エネルギーの現状と課題
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html環境にやさしいオフィスが企業にもたらすメリット
環境にやさしいオフィスビルを建てることは、温暖化対策になるだけではありません。環境に配慮した取り組みをしている企業にもメリットがあります。
働き方改革につながる
テレワークとCO2削減には大きな関わりがあります。
首都圏の自動車通勤者がテレワークを行うと削減できるCO2の排出量は、推計で1日あたり最大約2,337トン、削減率は9.7%です。今後テレワークを希望する、テレワークの未経験者全員が希望通りとなった場合、CO2の削減量は約2倍になります。*13
社会的に高い評価を得られる
エコアクション21認定事業者である環境経営に取り組んでいる事業者は、信用調査会社の調査によると、認定を受けていない事業者と比較して約5ポイント高い評価を受けています。
出所)環境省 働き方改革とCO2削減等の両立に向けて p.3
https://www.env.go.jp/content/900529093.pdfエコアクション21認定業者は環境への貢献だけでなく、経費削減などの経営面での効果、従業員間の相互理解と交流など組織面でも効果が表れています。*14
資金が集まりやすい *15
パリ協定やSDGsが採択されたことにより、資金の流れが変わりました。従来の化石燃料への投資から、環境・社会・企業統治を考慮したESG投資の流れが世界で拡大しています。
出所)環境省 働き方改革とCO2削減等の両立に向けて p.4
https://www.env.go.jp/content/900529093.pdfまた、自社のみならずサプライヤーや顧客に対しても、再生可能エネルギーへの転換を求める動きが出てきています。サプライチェーン全体で環境問題に取り組む時代といえるでしょう。
環境に配慮したオフィスにすることのメリットは多数ある
今回は地球温暖化の現状から、オフィスビルとしてできる対策、環境問題に取り組む企業のメリットを解説しました。
地球温暖化は世界的に取り組むべき深刻な課題です。だからこそ、一人一人が当事者意識を持って、課題解決に向けた行動をとらなくてはいけません。それは企業も同じです。その結果、課題解決へ対する行動に魅力を感じ、人やお金が集まってきます。
これ以上、地球の環境を悪化させないために、環境に配慮したオフィスで良い循環を作っていきましょう。
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外務省 パリ協定
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html
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https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6-wg1
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https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/
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JCCCA 温暖化とは?地球温暖化の原因と予測 増え続ける温室効果ガス
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01
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三菱地所のオフィスビルコンセプト 快適な室内環境を維持
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土木学会論文集B1(水工学)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/77/2/77_I_1339/_article/-char/ja/
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三菱地所のオフィスビルコンセプト ヒートアイランド対策
https://office.mec.co.jp/concept/eco.html
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国土交通省 猛暑日における屋上緑化のヒートアイランド抑制効果について
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/04/040824_.html
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三菱地所のオフィスビルコンセプト 再生可能エネルギーの利用
https://office.mec.co.jp/concept/eco.html
*12
経済産業省 再生可能エネルギーとは 再生可能エネルギーの現状と課題
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html
*13
日本経済新聞 テレワークでCO2削減、8都県1日最大9.7% 首都圏白書
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC07AW90X00C22A6000000/
*14
環境省 働き方改革とCO2削減等の両立に向けて p.3
https://www.env.go.jp/content/900529093.pdf
*15
環境省 働き方改革とCO2削減等の両立に向けて p.4
https://www.env.go.jp/content/900529093.pdf