近年街中では、スマートフォンをかざすだけで色々なことができるようになりました。
QRコードによる決済、スマホをタッチするだけの改札、アプリでのポイントサービスなど、多くの人が毎日持ち歩いているスマホがあれば財布を持ち歩かずに生活することすら可能になっています。
こうしたスマホによる非接触認証を、ビルの快適性向上に利用する動きがあります。
スマホの利用はテナント入居者に利便性をもたらすのはもちろんのこと、ビル管理にかかるコストを削減できる方法でもあるのです。
ビルとスマホの関係が活きるシーンをご紹介します。
スマホによる入退室管理
ビル管理にスマホを活用する方法にはいくつかありますが、そのうちのひとつが入退室管理です。
現在、入退室管理には、いくつかの種類があります。*1
パスワード(テンキー)認証
かつてはセキュリティエリアへの立ち入りは、ドアノブ付近に設置したテンキーで暗証番号を入力するというのがメインでした。あるいは何かのパスワードを入力するという形です。
しかし、この方法では、利用者がパスワードを忘れてしまうということがあります。安全性のために複雑なパスワードを設定すると覚えにくい、かといって単純なパスワードは解析・流出しやすいという欠点があります。
ICカードによる認証
次は、いま多く見られる、ICカードによる認証です。社員証に鍵の役割も持たせるというもので、カードをかざすことで入館、入室ができ、解錠・施錠もできます。
ただこの場合、ICカードを常に持ち歩かなければならないという手間が生じるだけでなく、ビル管理全体として考えると、退職や人事異動があった際にICカードは回収して新規発行しなければならず、そのためのコストがかかります。
また、紛失した場合、拾われて悪用される場合があります。
スマホアプリによる認証
そして新しい技術として、スマホアプリによる認証があります。
こちらはコストダウンにも繋がります。
スマホアプリを活用することのメリットとして、まずオフィス来館者への対応があげられます。ICカードの場合、受け入れ担当者があらかじめ申請を行い、来館者は受付や警備担当者などからICカードを受け取る必要があります。また、退出時にはICカードの返却も必要です。このようにICカードの場合は、カードの発行、受け渡しや、回収などに手間とコストがかかってしまいます。
しかし、スマホアプリによる管理の場合、手元のスマホアプリで設定さえしておけば、顧客のスマホが入館証となりスムーズに来訪してもらえるのです。
カードとスマホの受付フローの比較
出所)三菱電機技報「スマートフォンを活用した入退室管理システム」p.49
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2021/2110112.pdf上の図を見ても、ICカードでの管理に比べてかなり省力化されていることがわかるでしょう。
また、スマホアプリはIoTで他のアプリや機能との連携が可能です。アプリに様々な機能を追加したり他のアプリとの連携を広げていくことで、物理的なコストをかけることなくオフィスユーザーやその顧客の利便性を向上させ続けることができます。
エレベーターの操作もスマホの時代へ
通信ができるというスマホの特徴は、色々な場面で利用できます。
例えば、戸田建設本社ビル(東京・中央区)のフロアでは、自社開発のアプリ「T-BuSS®」を三菱電機グループが開発した「Ville-feuille®」のIoTプラットフォームと連携させることで、スマホでエレベーターの呼び出しや行き先階の登録ができるシステムを実現しています。*2
「T-BuSS®」イメージ(図左:ビル内設備やサービスと連携した機能一覧、図右:エレベーターの呼び出し操作)
出所)三菱電機ビルソリューションズ「ニュースリリース 戸田建設株式会社が自社開発する「TODA BUILDING」内の新本社フロア向けにエレベーターとロボットを連携させた「ロボット移動支援サービス」を提供」(2024年9月30日)
https://www.mebs.co.jp/press/240930.html長時間エレベーターホールで顧客や従業員を待たせることなく、また、行き先もあらかじめ設定できるので、両手がふさがっていても楽にエレベーターを利用できることになります。
また、フロア内に複数のエレベーターがある場合も、どのエレベーターがやってくるか事前に把握できるので、迷うこともなくなります。
さらに、フロア内でロボットを導入している場合、ロボットとも通信することで予約したエレベーターに載せるという形で、自律的「階をまたぐ移動」、いわゆる”縦移動”も可能になるのです。
スマートビルで人や施設を「見える化」するメリット
また、スマホを通信可能なビル管理ツールとすることで、DXが一気に進みます。
スマホアプリによって可能になるDX
出所)戸田建設「次世代スマートオフィス向けアプリ 「T-BuSS」を開発」
https://www.toda.co.jp/news/2022/20220930_003116.htmlフロア内で迷ったり困った人がいても位置を把握してスムーズな案内ができます。食堂からロボットが自動的にドリンクを配達することもできるでしょう。業務の効率化に繋がります。
また、会議室自体の空き状況をすぐに把握して顧客との面会時間を設定することもできます。
防災への応用も
さらに、こうした「見える化」のなかでも、「誰がどこにいるか」を把握することは、災害時の人的被害低減にも繋がります。有事の際には、社員が集中している場所へ救護を優先的に送り出すことで、救助までの時間短縮が期待できます。
また、日頃社員がどこにいることが多いか、などを見える化できていれば、備蓄の最適化に繋がり、ロスを防ぐこともできます。
人を思い、人に優しいビルへ
なお、企業に対してオフィスの変更理由を調査したところ、ビルの保有形態(自社保有・賃貸)に関わらず、「従業員満足度の向上のため」という回答が、もっとも大きな理由としてあげられています。*3
オフィスを変更する理由
出所)日本政策投資銀行「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」p.21
https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/24e82f6c6b8aab83625f41bfffe7f22d.pdf従業員の利便性が向上する、従業員が満足するオフィスのニーズが高くなっていることがわかります。
快適なオフィス環境を提供しながら、コストダウンをはかる。
そのために、誰もが常に持ち歩くスマホが新しい可能性を持つツールになっていきそうです。
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三菱電機「ネットワーク社会に求められる簡単・確実な個人認証について考える」
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*3
日本政策投資銀行「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」p.21
https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/24e82f6c6b8aab83625f41bfffe7f22d.pdf