東京の下町にそびえ立つ、高さ634mのテレビ塔。
2012年の開業日から今もなお、「東京スカイツリー」は観光地として賑わい続けています。
一方で日本は地震大国ですから、東京スカイツリーの設計にあたっては様々な耐震の工夫やしくみがあります。
特に驚くべきは、約1300年前に建立された法隆寺の「五重塔」に着想を得た耐震構造が使われている点です。
それはどんな構造なのでしょうか。東京スカイツリーの耐震のしくみについてご紹介します。
狭い足場で揺れに対して踏ん張ること
東京スカイツリーは、東京タワー(333m)の約2倍の高さに相当するタワーです。そして建物の高さの割には足場が狭いため、木のように幅広く根を張るわけにはいきません。まず狭い範囲でしっかり踏ん張れるような構造が必要でした。
高層建築物には様々な自然の力が加わります。地震による左右の揺さぶりはもちろんのこと、上空では強い風が吹き、タワーを揺らします。
風でタワーが揺れれば風上ではタワーを上に引き抜こうとする力、風下ではタワーを下に押し込もうとする力が働きます。

タワーにはたらく力と基礎杭
出所)大林組「東京スカイツリーのつくり方ナックル・ウォール工法」
https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/detail/skytree01.htmlそこで東京スカイツリーでは、巨大な三角形の基礎杭が採用されました。かつ、この杭の足下には「ナックル・ウォール」という、上下方向の力に耐えるための突起がついた杭が使われています。
上の図のように、この突起が地盤に引っかかることで、タワーを上に引きぬく力、下に押し込む力に対して踏ん張りを発揮できるのです。スポーツシューズのスパイクのようなものと言えるでしょう。
約1300年前の日本建築から得たヒント「心柱」
そして東京スカイツリーの耐震構造として最も注目されているのが「心柱(しんばしら)」の技術です。
東京スカイツリーは、2種類の構造体を利用することで耐震性を持たせています。
ひとつは外周部の「塔体」、もうひとつはタワーの真ん中に設けた鉄筋コンクリートの「心柱」と呼ぶ円筒状の構造体です。
低い領域では心柱と外周部は一緒に揺れるよう一体化されていますが、ある高さ以上からは心柱と外周部は切り離されています。

出所)日本大学論文「東京スカイツリーの耐震・耐風設計」p.5
http://www.rist.cst.nihon-u.ac.jp/prsn/paper/1_konishi.pdf両者が切り離され別々に動くことで中央部の心柱が「おもり」として働きます。*1
強い地震や強風時には「おもり」となる心柱が構造物本体と微妙にずれたタイミングで振動することで、揺れを相殺させるのです。その結果、構造物全体の揺れが低減するというしくみです。

建物内での「おもり」の働き
出所)東京スカイツリー公式サイト「構造設計」
https://www.tokyo-skytree.jp/about/spec/structure.html実際にスカイツリーのケースでは、地震による長周期地震動、直下型地震動に対して心柱設計が揺れを軽減しているとのデータが出ています。

出所)日本大学論文「東京スカイツリーの耐震・耐風設計」p.6
http://www.rist.cst.nihon-u.ac.jp/prsn/paper/1_konishi.pdfなお、東京スカイツリーでは心柱の内部に、非常階段が設置されています。*2
法隆寺の「五重塔」に由来
驚くべきことにこの「心柱」の技術は、日本の古代建築で既に採用されています。

法隆寺五重塔
出所)法隆寺「五重塔」
https://www.horyuji.or.jp/garan/gojyunoto/東京スカイツリーの心柱構想は、約1300年前に建てられた法隆寺をはじめ、地震に強いとされる五重塔を参考にしているのです。*3
確かに国内の寺社には、五重塔を備えるところが多くあります。これまで多くの大地震を経験したにもかかわらず、1000年以上経っても倒壊することなく塔が各地に現存しているのは不思議なことです。火災により消失したものもありますが、それは耐震性とは無関係です。
また、日光東照宮五重塔(栃木県日光市)は心柱を塔本体からつり下げてあり、下端は地面に接していません。五重塔が地震に強い理由は完全に解明されたわけではないものの、心柱が振り子のように動き塔の揺れを抑えているのではないかとの見方があります。*4
心柱の手法はほかにも
心柱による制振技術は他でも用いられています。
高知市郊外にある高知信用金庫の本部ビルは、南海地震を想定した「要塞」だといいます。*4
構想から22年をかけ2010年に完成したその内部には、コンピューター機器が強化天井のレールにつるす形で固定されています。「つるす」ことで建物の外壁に影響されることなくコンピューターのダメージを最小限にするという考え方は心柱そのものと言えるでしょう。
取引データを扱うコンピューターが設置してある心臓部は、厚さ1mの壁で囲んだ地下シェルターで守られており、耐震性は原子力施設に匹敵するといいます。
通常より太い鉄筋や高強度コンクリートに加え、縦、横の激しい揺れに対応する3次元の免震床を採用し、マグニチュード8.7の地震にも耐えられるという徹底ぶりです。
逃げられない大災害に対抗する「柔軟さ」
「柔よく剛を制す」
古くからあることわざですが、狭い国土でありながら高層建築物の需要がある日本で、東京スカイツリーの考え方はこのことわざ通りなのかもしれません。
また、「柔」というテーマに焦点を当ててみると、近年は環境問題も背景として、木造建築物が注目されています。日本国内においても、木造による大規模な建物の建設が進められています。
例えば、大林組は2022年に全ての地上構造部材(柱・梁・床・壁)を木材とした高層純木造耐火建築物「Port Plus 」を建設しました。純木造耐火建築物としては、国内最高となる高さ44m(11階建て)です。*5

「Port Plus」内部の様子
出所)大林組「日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus」(次世代型研修施設)が完成」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220520_1.html樹木は光合成によりCO2を吸収しているため、建築物への木材利用は、CO2を長期間固定することで脱炭素社会の実現に貢献します。
「使う・植える・育てる」というサーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点からも注目されているといいます。
大阪万博でも、日本は「大屋根リング」を最大の木造建築物としてその技術をアピールし、同時にギネス世界記録に認定されました。

出所)大阪万博公式サイト「大屋根リング」
https://www.expo2025.or.jp/expo-map-index/main-facilities/grandring/木材を用いた「しなやかな」建造物は日本の得意技かもしれません。
発生が予想されている南海トラフ地震をはじめ、今は大きな災害への備えが急務になっています。最新の耐震・免震技術を取り入れた備えで、地震・災害に強いビルへと発展していく様子を見守っていきたいものです。
また、こうした技術で海外でも日本の技術が活躍する日も来ることでしょう。
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*1
日建設計「時空を超える技術と感性 -東京スカイツリー-」
https://www.nikken.jp/ja/insights/corporate_history/12_03.html
*2
大林組「東京スカイツリーのつくり方階段鉄骨のリフトアップ工法」
https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/detail/skytree26.html
*3
日本経済新聞「スカイツリー、モデルは法隆寺「五重塔」参考に」
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO11913800Q0A730C1I00000/
*4
日本経済新聞「五重塔の知恵をスカイツリーに心柱で地震に備え」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFB0400H_W2A200C1SHD000/
*5
大林組「日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus」(次世代型研修施設)が完成」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220520_1.html


