近年、日本の都市部では高層木造ビルの建設ラッシュが続いており、ビル建設における「木造回帰」の動きが広がっています。
耐火性や強度を高めた木造技術が開発されたことで、高層ビルでも木造建築が現実的な選択肢となりつつあります。
2025年に開催された大阪・関西万博では、世界最大級の木造建築である「大屋根リング」が会場のシンボルとして注目を集め、木の可能性を再認識させるきっかけとなりました。
高層木造ビルの建設は、林業や地域経済の活性化に加え、脱炭素社会の実現にも貢献します。
寿命を迎えた国内の木材を伐採して建材として活用し、新たに植林を進めることで、森林資源の循環利用が促進され、結果として地球温暖化の抑制にもつながるためです。
この記事では、国内で増加しつつある高層木造ビルに注目し、その利点と脱炭素への貢献について詳しく解説します。
ビル建設の木造回帰はなぜ始まった?
ビル建設の分野では、耐火性や耐震性能が求められることから、長らく鉄骨造や鉄筋コンクリート造が主流でした。
一方で、木造建築は「燃えやすい」「耐久性が低い」といったイメージが根強く、低層の住宅などの限られた用途にとどまっていました。
しかし近年、都市部を中心に木造の高層ビルが次々と建設されるなど、木造建築への関心が高まっています。
高層ビルの木造化が進んでいる背景には、いくつかの理由があり、その一つが環境意識の高まりです。
高層ビルに木材を使用することで、森林が吸収した二酸化炭素を長期的に貯留することができます。
さらに木材の利用は森林資源の循環を促進し、持続可能な森林経営の実現にもつながります。
ほかにも、木造技術の進歩と法制度の整備も進んだことも、建築物の木造回帰を後押ししています。*1
強度に優れた建築用木材であるCLT(直交集成板)や高い耐火性能を備えた木質耐火部材の開発・普及によって、これまで難しかった木造の高層ビルの建築が可能になりました(図1)。*1

図1:CLTと木質耐火部材
出所)林野庁「高層木造ビルについて」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/attach/pdf/kousoumoku-2.pdfCLTは、複数の板が繊維方向に直交するように積層して接着されたパネルで、コンクリートに比べて断熱性が高く、床や壁に使用することで優れた断熱性能を発揮します。
木質耐火部材には木材を石こうボードで被覆したタイプのほか、モルタルなどの燃え止まり層を備えたもの、鉄骨を木材で覆ったハイブリッド構造のものなど、さまざまな種類が開発されています。*2
2000年の建築基準法改正により、防火や耐火などの条件を満たせば、木造でも高層ビルを建てられるようになりました。*1
さらに2016年には、CLTを用いた建築物の設計方法を定めた告示が公布・施行され、個別認定を受けなくてもCLT建築が可能となり、普及が進むきっかけとなりました。*2
こうした技術の進歩と制度の整備によって、木造建築は「低層住宅の構造」から「都市の高層ビルを支える構造」へと大きく進化しつつあります。
脱炭素社会実現の鍵を握る木材利用
先述したように、木造建築の推進は環境配慮という観点からも重要視されています。
では、木造建築はどのように脱炭素社会の実現に貢献しているのでしょうか。
森林は成長の過程で光合成をおこない、大気中の二酸化炭素を吸収します。
その森林から伐採された木材を建築物に利用することで、木材に含まれる炭素を長期間にわたって固定することが可能になります。
また、木材を使用することで建物の軽量化が図られるため、基礎工事の負荷が軽減され工期の短縮にもつながります。*3
さらに、木材は鉄やコンクリートなどの他の資材と比較して、製造や加工に必要なエネルギーが少ないため、建設過程における二酸化炭素排出量の削減にも寄与します。
くわえて、木造建築の促進は森林資源の循環利用を促進します。
森林は、「収穫する」→「使う」→「植える」→「育てる」→「収穫する」というサイクルを繰り返すことで、バランスのとれた健全な状態を保つことができます(図2)。*3

図2:森林の循環利用(イメージ)
出所)内閣官房「高層木造ビル事例集」p.2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cltmadoguchi/pdf/clt_20220601_jireisyu.pdf木材を積極的に利用して資源を循環させることは、次世代の森林の再生を促すことにもつながります。
二酸化炭素を多く吸収する若い森林が着実に増えていけば、結果として気候変動の抑制に大きく貢献します。
ほかにも、国産材を積極的に活用することは、日本の林業の持続的な発展や森林の適正な整備を促し、地域経済の活性化にもつながります。
戦後に植林された人工林の樹木の半分以上が植栽30年を超えており、いままさに利用に適した時期を迎えています(図3)。*4

図3:人工林の齢級別面積
出所)日本総研「好機を迎えたわが国の森林・林業再生」p.6
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/15323.pdfこれらの木材の新たな需要を生み出すことは、日本の森林や林業を再生させるうえでも欠かせない取り組みとされています。
このように、木材の活用は、再生可能な資源の循環利用を通じたカーボンニュートラルの実現や地域社会の持続的な発展に深く関わっています。
都市部で進む高層木造ビルの事例
ビルやマンションなどの高層建築物で木造を採用する事例には、すべての構造を木造で構成するものだけでなく、鉄骨造や鉄筋コンクリート造などと組み合わせた「混構造」の建物も多く見られます。
混構造の例としては、中層階までを鉄筋コンクリート造で上層階を木造にした事例や耐震壁にCLTを使用した事例、建物の片側を木造とした事例 などがあります(図4)。*3

図4:木造構造の選択肢
出所)内閣官房「高層木造ビル事例集」p.5
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cltmadoguchi/pdf/clt_20220601_jireisyu.pdfこのように、建築技術と設計手法の高度化によって、高層ビルにおける多様な木造活用が全国で進められています。
2021年2月には、JR仙台駅東口に日本初となる純木造7階建の「髙惣木工ビル」が完成しました。
このビルは主要構造のすべてを木造とした純木造建築で、CLTや集成材ではなく丸太を切り出した製材を使用しています。
使用された木材は宮城・岩手・福島といった東日本大震災の被災地から調達されており、復興支援という側面も持っています。
この7階建木造ビルの完成により、日本でも高層ビルの木造建築が可能であることが実証されました。
各地で調達しやすい製材と木質耐火部材を組み合わせた構造であるため、全国で展開可能な木造ビルのモデルケースとなっています。*5
そして2022年には、神奈川県横浜市に日本初の地上11階建て高層純木造耐火建築物「Port Plus」が誕生し、木造建築の可能性をさらに広げました。
このビルは、柱・梁・床・耐力壁・屋根のすべてを木造とし、二酸化炭素の排出削減にくわえて、炭素の貯蔵量を最大化しています。
建設時に排出される二酸化炭素量は、鉄骨造の約1/2、鉄筋コンクリート造の約1/4に抑えられており、木造ビルの環境性の高さを実証する事例となりました。*3
さらに、2024年には国内最大・最高層となる地上18階建・高さ84mの高層木造の「日本橋本町三井ビルディング &forest」の建設工事が開始されました。
このビルでは、国内初適用となる木造・耐火技術を多数採用しており、3時間火に耐えられる燃えにくい木造部材も使用されています。
環境性能も高く、鉄筋コンクリート造と比較して、建設時の二酸化炭素排出量を約30%削減できると想定しています。
完成は2026年を予定しており、環境性能と最新の構造技術の両立を実現した次世代の高層木造ビルとして注目を集めています。*6
木造建築が拓く持続可能なまちづくり
再生可能な資源である木材を使用した木造建築は、環境負荷の低減と居住者の快適性を両立できる 建築手法です。
木材の活用は二酸化炭素排出削減に大きく貢献することから、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた重要な取り組みのひとつとされています。
また、森林資源の循環を促すことで、日本の林業の再生や地域経済の活性化にもつながります。
さらに、木材は優れた断熱性と調湿性を備えており、快適で居心地のよい空間を形成します。
木のぬくもりが感じられる空間は、働く人の心を落ち着かせ、集中力を高める効果も期待されています。*3
持続可能な社会の実現にむけて、木造建築の価値は今後ますます高まっていくでしょう。
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*1
林野庁「高層木造ビルについて」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/attach/pdf/kousoumoku-2.pdf
*2
林野庁「第1部 第3章 第3節 木材産業の動向(3)」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/R2hakusyo_h/all/chap3_3_3.html
*3
内閣官房「高層木造ビル事例集」p.2, p.3, p.5, p.16
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cltmadoguchi/pdf/clt_20220601_jireisyu.pdf
*4
日本総研「好機を迎えたわが国の森林・林業再生」p.6
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/15323.pdf
*5
農林漁業信用基金 「脱炭素社会を実現する木造都市づくり」p.1
https://www.jaffic.go.jp/whats_kikin/kouhou/kikin_now_2021_03.files/kikin_now_2021_03_02.pdf
*6
三井不動産 「国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル着工 「日本橋に森をつくる」 “終わらない森”創りを通じた持続可能な社会の実現に貢献」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2024/0111_01/


