• 更新日:2026.07.08
  • 作成日:2026.07.08

都市のシンボルはこうして生まれた 高層ビルの歴史

街を歩いていて、思わず見上げてしまうような高層ビルはたくさんあります。こうした巨大建造物はいつから私たちの街に現れるようになったのでしょうか。

都市のシンボルとなった高層ビルは、どのような歴史を歩んできたのでしょうか。その変遷を紐解いてみましょう。

高層ビルはいつ生まれたのか

ビル建設の転換点としてよく挙げられるのが、シカゴとニューヨークです。

超高層ビル発祥の地はシカゴであるといわれており、その始まりは1871年の大火からの復興にある、とされています。

もう一方のニューヨークでは、19世紀初頭に碁盤の目状の区画割りがなされました。さらに、乗用エレベーターの普及が進み、建物の高層化のきっかけになったといわれています。

そして、1870年代にマンハッタンに完成した「エクイタブル生命本社ビル」は、昇降機の常時利用を前提として設計された最初のオフィスビルといわれています。規模は8階建て、約40mほどです。*1

現代の感覚から見ると、40mの高さはそれほど高いとは言えませんが、150年以上前にすでにこの高さの建築物が存在していたことに、驚きを隠せません。

確かに、ただ高い建物を建てるだけでは、それは一過性のモニュメントにすぎません。日常的に人が出入りし、機能的に使いこなされるには、昇降設備の進化が不可欠でした。特に、乗用エレベーターが実用レベルに達したことは、高層ビルが「使える空間」として成立するうえで、決定的な要素だったといえます。

さらに、都市計画の土台が整っていたことも見逃せません。シカゴでは1871年の大火災を契機に、街が一から作り直されるプロセスの中で、当時としては大胆ともいえる高層建築が実現できたのでしょう。

そう考えると、現在の都市に当たり前のように存在する高層ビルも、技術や環境、制度がそろったからこそ可能になったのだと言えます。

日本の建物の高さの変遷

一方で、日本の建物の高さはどのように変わってきたのでしょうか。

日本には歴史的な建造物がたくさんあります。その中でも「出雲大社本殿」は、現在は8丈(約24m)ですが、かつては16丈(約48m)あったと考えられています(図1)。*2

図1:平安時代の出雲大社本殿模型

出所)國學院大學「出雲大社の謎 古代に存在した巨大神殿のルーツに迫る」

https://www.kokugakuin.ac.jp/article/53888

現在の本殿は、1744(延享元)年に建てられたものですので、時代背景を考えれば24mでも十分高いと言えますが、その倍、48mもの高さがあったとは驚きです。

これまで、そのような巨大な本殿が本当に存在していたのか疑問視されていましたが、2000(平成12)年に巨大柱の柱根が発見され、その存在が裏付けられたとされます。*2, *3

他にも、「藤原京の大官大寺の塔」は九重で高さ約90mもあったといわれています(図2)。*3, *4, *5

図2:大官大寺復元模型

出所)奈良県「飛鳥・藤原を世界遺産に」

https://www.pref.nara.jp/62467.htm

これらは、もちろん「ビル」ではありませんが、日本の建築技術の高さを物語っている建物と言えるでしょう。

明治時代には、庶民でも高い場所からの眺めを楽しめる展望施設が人気を集めることになります。1890年(明治23)年に建設された「浅草凌雲閣」は、高さ173尺(約52m)で、市民に新たな娯楽を提供していました(図3)。*3, *6

図3:浅草凌雲閣

出所)荻本 和男「明治期よちよち歩きの電気技術」電気学会誌 1994年114巻12号 p.824

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/114/12/114_12_822/_pdf/-char/ja

明治中期には、「三菱一号館」(1894(明治27)年)をはじめとする煉瓦造オフィスビルが建てられるようになります(図4)。*3, *7

図4:竣工当時/復元当時の三菱一号館

出所)三菱一号館美術館「三菱一号館美術館について | 新しい私に出会う」

https://mimt.jp/about/

大正期になると、オフィスビルに加えて、デパートなどの商業施設の高層化が進みました。

図5は昭和20年代の丸の内の写真ですが、比較的高さのある建造物が建っていることがわかります。このころ、東京駅と皇居を結ぶ行幸通りは、「一丁紐育(ニューヨーク)」と呼ばれたそうです。*3

図5:昭和20年代の丸の内

出所)大澤 昭彦「建物高さの歴史的変遷(その1)―日本における建物の高さと高層化について―」土地総合研究 2008年春号 p.21

https://www.lij.jp/html/jli/jli_2008/2008spring_p015.pdf

昭和30年代にはタワーブームが訪れ、今でも親しまれている「東京タワー」や「京都タワー」などが建設されています。

当時は、住居地域以外で31m、住居地域では20mという高さ制限が設けられており、これが大規模なオフィスビルの建設を妨げる要因となっていました。

しかし、オフィスビル需要の増大や交通混雑等の問題の顕在化などの背景から、1970(昭和45)年の建築基準法改正で用途地域の“絶対高さ制限を撤廃”し、容積制へ完全移行しました。*3

これを機に、日本のビルは超高層ビル時代へと突入したのです。

日本の超高層ビル元年

こうした高さ制限の撤廃と法改正を受けて、1968(昭和43)年に、国内初の超高層ビルである「霞が関ビル」が竣工しました。このころ既に東京タワーは存在していましたが、高さ156m 36階建てのビルは、当時の人々に大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。
※「霞が関ビル」:前述の1970年改正以前の1961年に創設された「特定街区制度」による容積制を活用して建築されています。

その後、1971(昭和46)年に「京王プラザホテル」(高さ約180m)、1991(平成3)年に「東京都庁第一本庁舎」(高さ243m)など、超高層ビルが続々と建設されるようになりました(表1、図6)。*3

表1:高さ制限撤廃後の主な超高層ビル

出所)大澤 昭彦 「建物高さの歴史的変遷(その1)―日本における建物の高さと高層化について―」土地総合研究 2008年春号 p.24

https://www.lij.jp/html/jli/jli_2008/2008spring_p015.pdf

図6:日本の主な超高層ビル

出所)鹿島建設株式会社「世界の超高層|超高層|建設博物誌|知る・楽しむ」

https://www.kajima.co.jp/gallery/const_museum/kousou/main/index.html#1_sglb_1

表1に記載されているビル以外にも、2023(令和5)年には、約330mで日本一高いビル(建設当時)となる「麻布台ヒルズ森JPタワー」も建設され、その高さを更新し続けています(図7)。*8

図7:Mori Building Co., Ltd. - Azabudai Hills

出所)東京の観光公式サイトGO TOKYO「日本一の超高層ビル・麻布台ヒルズが2023年11月24日オープン」

https://www.gotokyo.org/jp/new-and-now/new-and-trending/231010/topics.html

ビルのスマート化

近年のビルは高さを求められているだけではなく、ビルのスマート化が進んでいます。

スマートなビル、いわゆるスマートビルとは、クラウドやIoT、AIといった先端技術を活用し、従来の設備制御システムでは難しかった高度な省エネルギー化や、快適性・利便性の向上を可能にするビルのことを指します。*10

スマートビルの役割は、多様なニーズに対応しながら人々の営みを活気づける空間やサービスを提供するところにあります。

また、提供するサービスは継続的にアップデートされ、ビル同⼠が協調し複数ビルでサービスを提供することも期待されています。

たとえば、

  • 省エネ効果の高いビルを選びやすくなる
  • 健康増進の行動を誘導
  • 手ぶらでの移動・買い物
  • ロボット同士で作業状況や位置情報を共有(警備・清掃・運搬などの作業状況や位置情報など)
  • ビル壁面を活用した発電
  • 自動バレーパーキング(自動で車を移動・搬送させて駐車したり、呼び出したりするシステム)

などのサービスが想定されています(図8)。*11

図8:スマートビルの活用シーン

出所)独立行政法人情報処理推進機構「スマートビルガイドライン 補足説明資料」p.24

https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/Individual-link/ps6vr7000001x8o0-att/smartbuilding_guideline_appendix.pdf

このようにビルは、単に便利で省エネな建物にとどまらず、都市全体と連携し“使われながら進化するプラットフォーム”としての役割を担い始めています。

今後、スマートビルの普及が進むことで、私たちの都市空間にはさまざまな効果が期待されています。

特に、ビルやアプリケーション、各種サービスがデータによって連携することで、建物を取り巻くリソースが最適化され、大きなコストメリットが生まれると考えられています。

多様なサービスと相互接続することで、ニーズに合わせたサービス提供のチューニングや、DX(デジタルトランスフォーメーション)の促進にもつながります。既存業務の見直しや自動化、ビル環境の予測や自動レポーティングなどで業務負荷の軽減も期待されています。

他にも、アプリやサービスの開発ハードルが低くなり、スタートアップが参入しやすくなる、コミュニティによる開発やアプリ利用が加速するといった予測も立てられています。*11

スマートビルは、建物単体の性能を超えて、都市全体の柔軟性と持続性を高めるインフラへと進化しつつあります。

こうした変化はすでに一部の先進的なビルで始まっています。

たとえば、2020(令和2)年9月に開業した「東京ポートシティ竹芝」では、IoTセンサーやカメラなどで収集したデータを活用し、館内の混雑状況の可視化や人流分析、ビル管理の効率化などに取り組んでいます(図7)。*12

図9:東京ポートシティ竹芝のスマート化イメージ

出所)東京ポートシティ竹芝「スマートビルディング」

https://tokyo-portcity-takeshiba.jp/about-us/smart-building/

また、「大手町パークビル」でも2021(令和3)年以降から順次、配送ロボット活用や警備・設備点検の高度化など、スマートビル化を進めています(図10)。*13

図10:ロボットを使った配送サービス

出所)三菱地所株式会社「次世代型施設運営モデルを深化・拡大、Society5.0実現へ」

https://www.mec.co.jp/news/detail/2023/04/11_mec230411_jisedai

ビルは新たな都市の象徴

高層ビルの歴史を振り返ると、それは単なる建築技術の進歩だけでなく、人々の働き方や都市生活そのものの変化を映し出す鏡でもあることがわかります。

日本では1968(昭和43)年の「霞が関ビル」竣工を皮切りに、法制度の変化と技術革新が相まって超高層時代が幕を開け、今では300mを超える「麻布台ヒルズ」のような巨大建造物が当たり前の風景となっています。*3 *8

そして現在、高層ビルは再び大きな転換点を迎えています。IoTやAI技術を駆使したスマートビル化により、省エネルギー性能の向上はもちろん、利用者の健康増進や利便性向上まで、建物そのものが「サービス」を提供する時代に入りました。

エネルギーコストの削減や快適性の向上など、私たちはこれから生まれる新しい都市の象徴に驚かされることになるでしょう。

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*1
崎山 茂「日本における超高層ビルの歴史」電気設備学会誌 2021年12号 p.715~716
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*2
國學院大學「出雲大社の謎 古代に存在した巨大神殿のルーツに迫る」
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*3
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https://www.lij.jp/html/jli/jli_2008/2008spring_p015.pdf

*4
島根県立古代出雲歴史博物館「よくある質問と回答」
https://www.izm.ed.jp/faq/qdetail/DTL000000348.htm

*5
奈良県「飛鳥・藤原を世界遺産に」
https://www.pref.nara.jp/62467.htm

*6
荻本 和男「明治期よちよち歩きの電気技術」電気学会誌 1994年114巻12号 p.824
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/114/12/114_12_822/_pdf/-char/ja

*7
三菱一号館美術館「三菱一号館美術館について | 新しい私に出会う」
https://mimt.jp/about/

*8
鹿島建設株式会社「日本の主な超高層ビル|世界の超高層|超高層|建設博物誌|知る・楽しむ」
https://www.kajima.co.jp/gallery/const_museum/kousou/main/index.html#1_sglb_1

*9
東京の観光公式サイトGO TOKYO「日本一の超高層ビル・麻布台ヒルズが2023年11月24日オープン」
https://www.gotokyo.org/jp/new-and-now/new-and-trending/231010/topics.html

*10
粕谷 貴司「スマートビルのデータプラットフォーム」電気設備学会誌 2021年4月号 p.216
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiej/41/4/41_216/_pdf

*11
独立行政法人情報処理推進機構「スマートビルガイドライン 補足説明資料」p.14, p.23~25, p.29
https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/Individual-link/ps6vr7000001x8o0-att/smartbuilding_guideline_appendix.pdf

*12
東京ポートシティ竹芝「スマートビルディング」
https://tokyo-portcity-takeshiba.jp/about-us/smart-building/

*13
三菱地所株式会社「次世代型施設運営モデルを深化・拡大、Society5.0実現へ」
https://www.mec.co.jp/news/detail/2023/04/11_mec230411_jisedai

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