次世代太陽電池の一つとして注目を集めているのが、薄くて軽いペロブスカイト太陽電池です。
脱炭素推進に貢献する再生可能エネルギーでありながら、柔軟性が高く、加工しやすいところが特長です。
近年では、フィルム状のペロブスカイト太陽電池を高層ビルの外壁に使用したり、ガラスなどの建材と組み合わせて窓ガラスとして活用する取り組みが進んでいます。
建物自体が発電所となることで、都市部における再生可能エネルギー導入を後押しするだけでなく、災害時には非常用電源としても活用することができます。
2025年6月には、国内のオフィスビルで初めて、ペロブスカイト太陽電池を外壁に使用した実証が開始されました。
さらに、同年8月には臨海副都心青海地区のテレコムセンタービルにおいて、次世代型ソーラーセルを活用した建材一体型太陽光発電内窓の実装検証が開始されるなど、実用化に向けた動きが加速しています。
ペロブスカイト太陽電池の普及が進むことで、都市のエネルギーインフラは今後どのように変化していくのでしょうか。
ペロブスカイト太陽電池とは
太陽の光を変換してエネルギーとして活用する太陽電池には、さまざまな種類があり、住宅の屋根などに設置されている太陽パネルの多くは、シリコン太陽電池に分類されます。
近年注目を集めているペロブスカイト太陽電池は、国内の研究者によって開発された日本発の技術で、薄くて軽く、柔軟性に優れている点が大きな特長です。
従来のシリコン太陽電池では、設置が難しかった場所にも導入できるポテンシャルを秘めています。
もともと「ペロブスカイト」とは、灰チタン石(かいチタンせき)の結晶のことで、「ペロブスカイト構造」は、その独特な結晶構造を持つ物質の総称として用いられています。
ペロブスカイトはマイクなどの音を電気に変換する圧電材料として利用されている一方で、電力を光へ変換する発光材料としても研究が進められてきました。
そうしたなかで、桐蔭横浜大学の宮坂力氏らの研究グループがペロブスカイトを太陽電池に使用する技術を発明し、注目を集めました。
その後、オックスフォード大学と産業総合研究所の共同研究によって固体型太陽電池の開発に成功し、変換効率10%超を達成したことで、次世代太陽電池として世界的に研究・開発の波が広がっていきました。*1
次の図1は、ペロブスカイト太陽電池のしくみを簡単に示したものです。*1

図1:ペロブスカイト太陽電池のしくみ
出所)産総研マガジン「ペロブスカイト太陽電池とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221124.html太陽の光を吸収するとペロブスカイト層で電子とホール(電子が抜けた「抜け殻」のような部分)が発生します。
そして電子は電子輸送材料を、ホールはホール輸送材料を通りそれぞれ電極へ移動することで、電気が生み出されるというしくみです。
日本の新たな再生可能エネルギーとして期待されているペロブスカイト太陽電池には、軽さや柔軟性といった特性の他にも、さまざまな強みがあります。
まずペロブスカイト太陽電池の主要な原料であるヨウ素は、輸入に頼らず国内で生産でき、日本はその供給量で世界第2位のシェアを誇っています(図2)。*2

図2:ヨウ素の国際シェア
出所)経済産業省「「エネルギー基本計画」をもっと読み解く③:大幅な拡大をめざす再生可能エネルギー」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energykihonkeikaku2025_kaisetu03.htmlエネルギー資源の乏しい日本にとって、原料調達を国際情勢に左右されないということは、エネルギー安全保障の観点からも非常に重要です。
国内産の再生可能エネルギーであるペロブスカイト太陽電池の普及が進めば、エネルギー自給率の向上にも貢献するでしょう。
また、ペロブスカイト太陽電池は、その製造プロセスにも大きな特徴があります。
材料をフィルムなどに塗布・印刷する方式で製造することができるため、製造工程が抑えやすく、大量生産による低コスト化が見込めます。
このように多くのメリットがある一方で、ペロブスカイト太陽電池の本格的な社会実装に向けては課題も残されています。
大型化や長寿命化に加え、さらなる変換効率の向上については、今後も継続的な技術開発が求められています。*3
ペロブスカイト太陽電池の種類と建材としての強み
ペロブスカイト太陽電池は、発電層をフィルムに塗布するフィルム型、発電層をガラスで挟むガラス型、シリコン太陽電池に重ねて使用するタンデム型の3種類に分類されます(図3)。*4

図3:ペロブスカイト太陽電池の種類
出所)積水化学工業株式会社「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」p.6
https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdfフィルム型については、日本は大型化や耐久性など、量産化に不可欠な技術分野で海外をリードしています。
一方で発電コストのさらなる低減を実現するには、耐久性向上に関する技術開発が引き続き課題となっています。
ガラス型は、フィルム型と比較して耐水性や耐久性を確保しやすく、高層ビルや住宅の窓ガラスを代替する用途に適しています。
海外でも技術開発が積極的に進められているので、国際競争は激化しつつあります。
現在主流のシリコン太陽電池を置き換えることが可能なタンデム型は、世界的に巨大な市場が見込まれています。
ただし、原料であるシリコンの海外依存度が高いことに加え、フィルム型やガラス型と比較して開発が十分に進んでいない点が課題です。*5
このように、ペロブスカイト太陽電池は種類ごとにそれぞれ異なるメリット・デメリットがあり、用途や目的に応じて使い分けることが想定されています。
なかでも、高層ビルへの設置に関して実証が進められているのが、フィルム型とガラス型です。
フィルム型は、薄くて曲げられるという特性を活かし、これまで設置が難しかった高層ビルの外壁にも設置できます。
曲面を多用した意匠性の高い建築物にも使用でき、建材としての大きな可能性を秘めています。
窓ガラスやバルコニーへの利用が想定されているガラス型は、新築のビルはもちろん、既存のビルに後付けで設置することも可能です。
次の図4は、ペロブスカイト太陽電池を窓ガラスに挟み込んだ内窓タイプの製品です。*6

図4:内窓タイプのガラス型ペロブスカイト
出所)自然エネルギー財団「ペロブスカイト太陽電池の導入場所が広がる」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_PerovskitePV_202510.pdf図4では、窓ガラスの下部に発電層を含むガラスが用いられていますが、高い透過性を備えているため、建物の外観や窓ガラスの機能を損なうことなく、発電機能を付加することができます。
国内の高層ビルの導入事例
2025年6月、積水化学工業株式会社の大阪本社が入居するオフィスビルに、国内で初めてフィルム型ペロブスカイト太陽電池が実装されました。
本社ビルのリニューアル工事に合わせて、既存建物外壁に設置されたもので、地上12階の風荷重に20年相当耐えられる、安定した発電性能を有しています(図5)。*7

図5:フィルム型ペロブスカイト太陽電池付き建材パネル
出所)積水化学工業株式会社「国内初、ペロブスカイト太陽電池をビル外壁に実装-大阪本社リニューアル工事-」
https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1393391_40075.html発電量は、グループ会社を含む従業員約900人分の業務用パソコンとスマートフォンをフル充電できる規模に相当します。
平常時の電力供給に活用できるだけでなく、大規模災害時には非常用電源としての活用も見込まれています。*8
2025年8月には、メーカー数社と東京都港湾局が共同で、建材一体型太陽光発電の実装検証を、臨海副都心青海地区のテレコムセンタービルで開始しました。
この実証は「臨海副都心カーボンニュートラル戦略」の一環として実施されるもので、フィルム型モジュールの次世代型ソーラーセルを活用したペロブスカイト太陽電池を内窓に設置し、創エネ効果を検証します(図6)。*9 *10

図6:テレコムセンタービルにおける建材一体型太陽光発電実装検証
出所)YKK AP「臨海副都心の既存オフィスビル「テレコムセンタービル」でフィルム型ペロブスカイト太陽電池(次世代型ソーラーセル)を内窓に用いた建材一体型太陽光発電の実装検証を開始」
https://www.ykkapglobal.com/ja/newsroom/releases/20250805内窓には太陽光を反射して熱の透過を抑え、冷房効率を高めるガラスも採用されています。
これにより、発電による創エネと、空調負荷を低減する省エネの相乗効果が期待されます。
この実証は実際に稼働している既存ビルへの導入を想定した取り組みで、将来的な社会実装に向けて施工方法や運用面などの課題についても検討をおこないます。
都市のエネルギーインフラは変わるのか?
ペロブスカイト太陽電池の高層ビルへの導入が進めば、ビルそのものが発電所となり、都心部でも「発電から消費まで」のすべてを完結できるようになります。
国土が狭く山間部の多い日本では、太陽光発電の導入にあたり、スペースの確保が大きな課題となっていましたが、外壁や窓などを有効活用できるペロブスカイト太陽電池は、その課題を解消できる有力な選択肢と言えるでしょう。
都市の建物が自ら電力を生み出し、その場で消費する新しいエネルギーインフラが構築できれば、送電ロスの低減や災害時の電力確保にもつながります。
ペロブスカイト太陽電池は、都市部における「エネルギーの自立」を実現するための中核技術として、大きな期待を集めています。
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積水化学工業株式会社「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」p.6
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*5
経済産業省「次世代型太陽電池戦略」p.12
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
*6
自然エネルギー財団「ペロブスカイト太陽電池の導入場所が広がる」p.7
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_PerovskitePV_202510.pdf
*7
積水化学工業株式会社「国内初、ペロブスカイト太陽電池をビル外壁に実装-大阪本社リニューアル工事-」
https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1393391_40075.html
*8
日本経済新聞「積水化学、大阪本社ビル改修完了 外壁にペロブスカイト太陽電池」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF304VP0Q5A630C2000000/
*9
都庁総合ホームページ「次世代型ソーラーセルを用いた建材一体型太陽光発電の実装検証の開始 既存ビルへのフィルム型の次世代型ソーラーセルを用いた内窓設置で創エネの技術開発を推進」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/07/2025071804
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YKK AP「臨海副都心の既存オフィスビル 「テレコムセンタービル」でフィルム型ペロブスカイト太陽電池(次世代型ソーラーセル)を内窓に用いた建材一体型太陽光発電の実装検証を開始」
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