昨今、私たちの暮らしにおいて「ウェルビーイング(心身の健康と幸福)」への意識が建築業界で高まっています。エレベーターという限られた空間での移動は、利用者に潜在的なペイン(ペイン:苦痛や不快感)として「閉塞感」「気まずさ」を感じさせることがありました。
当社、三菱電機ビルソリューションズが開発した「快適空間エレベーター」は、そんな現代社会のニーズに応える新しい移動体験を提供します。
今回取材したのは、昇降機開発部 意匠開発課 主席技師の吉田謙吾さん。国内外のエレベーター意匠設計を手がけてきた吉田さんに、開発の背景や技術的な工夫、そして「利用者の快適な移動体験」への想いを訊きました。
開発背景|「閉塞感」「気まずさ」を「快適」に変えるウェルビーイングへの挑戦
「快適空間エレベーター」の開発に取り組むきっかけは、現代社会のニーズの変化にありました。
建築トレンドとして、ウェルビーイングの観点から利用者のストレス軽減が重要視されています。従来から存在するエレベーターの乗車時の潜在的なペイン、具体的には「閉塞感」や「気まずさ」を解消することが、大きな目標となりました。
この課題に対し、開発チームは「心理的な広がりを提供する」という方針を決定。その手段として、自然環境を感じさせる光や音、素材を用いることでリラックス感を得て、気まずさや閉塞感を軽減することを目指しました。
開発において特に注力したポイントは、「エレベーターに乗る際の閉塞感や気まずさを解消し、快適を価値に変えること」です。その実現のために「自然を想起させる空間の広がり感を演出すること」に尽力しました。

自然を想起させる技術とデザイン
3つの要素が織りなす快適空間
リラックス感を得る乗車体験を実現するため、「快適空間エレベーター」には3つの革新的な要素が取り入れられています。
吉田さんの専門分野である意匠開発では、「乗車時にリラックスできるデザイン」にこだわりました。「青空照明 misola(みそら)」による自然の青空を再現した照明が、実際の空を見ているような感覚を感じられ開放感を演出、加えて天井と正面壁の隙間から木洩れ日が差し込んでいるように見える「陽ざしコーニスデザイン」により閉塞感を和らげます。


さらに、立体音響システム「DIATONE Ambience」により、川のせせらぎや小鳥のさえずりなどを立体的に再現した自然音を組み合わせることで、エレベーターの中にいても空間の広がりを感じられるよう設計しました。
これら光、音、視覚的な要素が一体となり、利用者が無意識のうちにリラックスできる環境を創り出すことができました。
※「青空照明」「misola」は、三菱電機株式会社ならびに三菱電機照明株式会社の登録商標です。
※「DIATONE」は、三菱電機株式会社の登録商標です。
効果測定実験
照明・音をデザインした快適空間エレベーターについて、エレベーター内での閉塞感、気まずさの解消効果を感性実験により確認しました。
利用者は、かご内に流れる効果音によってリラックスできるとともに、目線を上に向けるよう促されることで、青空のような照明など空を模した天井に気づきます。自然を感じることで同乗者への意識が軽減され、気まずさを感じにくくなるため、移動時間が短く感じられるという効果が得られました。*1*2

また、実際に採用された「田町センタービル」では、ベビーカーを利用する親子が「なんか鳴いていたね」「もう1回乗ってみようか」と微笑みながら会話を交わす姿が見られ好感触だったようです。*3
エレベーターが単なる移動手段から、心地よい体験の場へと変わった瞬間でした。

感性に響くデザインの裏側
「快適空間エレベーター」の開発において、最も重要だったのは“気まずさ”の正体を明らかにすることでした。
開発チームはまず、エレベーター利用時の困りごとに関する調査*4 を通じて、「気まずさ」だけでなく、「圧迫感」や「無音であること」など、視覚・聴覚に起因するネガティブな要素が多く挙がることを確認しました。
さらに、既往研究*5 で、音響効果がエレベーター乗車時の不安や気まずさを軽減することが示されており、これらの知見を踏まえて、音響・照明を含む意匠デザインの組み合わせに着目したアプローチが採用されました。
実際の開発では、利用者の行動観察や主観評価を繰り返しながら、自然音がリラックス感を生み、青空照明などの視覚的要素が視線を誘導することで、同乗者への意識が軽減されるという効果が確認されました。こうした試行錯誤の末に、感性に訴える空間演出が「気まずさ」の解消に有効であるという確信を得るに至ったのです。
「居心地の良さや開放感は主観的なもので、写真だけでは伝わりにくい。
だからこそ、感性に響く体験をどう設計するかにこだわりました」と吉田さんは語ります。*6

「閉塞感」や「気まずさ」といったペインを解決し快適性につなげる取り組みが評価され、快適空間エレベーターは、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「2024年度グッドデザイン賞」 公共用機器・設備カテゴリーで「グッドデザイン賞」を受賞しています。 *7
未来のエレベーターは、もっと快適に
吉田さんは今後、利用者が抱えるさまざまなペインを解決する移動体験の快適化に取り組んでいくとのことです。
この快適空間エレベーターは、写真や言葉だけでは伝わりきらない価値を持っており「ぜひ当社ショールームで乗車体験をしていただきたい」と呼びかけています。
自然のぬくもりに包まれるエレベーター——それは、日常の移動時間に新しい価値をもたらす一歩かもしれません。
今回の「快適空間エレベーター」は、以下Webページでもご紹介しています。
三菱エレベーターの開発の歴史を交えて、詳細を掲載していますのでぜひチェックしてみてください。
三菱エレベーターの"縦の移動"を変えてきた挑戦と変革|昇降機新設・リニューアル|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/elevator/new/challenge-change/kaiteki-brand/- MAIL MAGAZINE
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*1
「快適空間エレベーター」の効果|製品・ソリューション|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/elevator/renewal/movie_kaiteki.html
*2
三菱電機技報2023年11月号 特集論文 「快適空間エレベーター」
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2023/2311102.pdf
*3
田町センタービル|導入事例|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/cases/multiple-solutions/interview/1200286_1508.html
*4
エレベーターを使う際の困り事はありますか?|ミルトーク
https://milltalk.jp/boards/2867
*5
鈴木, 宇津木(2010)「模擬エレベーター内における音楽と同乗者の存在が女性搭乗者の不安に与える影響」行動医学研究, 16巻1号, p.1-11
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbm/16/1/16_0807/_pdf/-char/ja
*6
快適空間エレベーター | 三菱電機 デザインの仕事 | 企業情報 | 三菱電機
https://www.mitsubishielectric.co.jp/design/29/
*7
「快適空間エレベーター」が「2024年度グッドデザイン賞」を受賞|ニュースリリース|三菱電機ビルソリューションズ
https://www.mebs.co.jp/press/241016.html



